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第17話:裏の道、裏の人

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誰にでも「近道」と呼ぶ道がある。
表通りより人通りが少なく、少しだけ陰気な細道。

私の通学路にも、そんな“裏の道”があった。

商店街の脇を抜け、古いアパートとブロック塀の間を通る細い道。
昼でも薄暗く、誰ともすれ違わない。

けれど、ある日から、そこに“誰か”が立つようになった。

最初に気づいたのは、秋の始まり。
その人は、黒いレインコートのようなものを羽織っていて、
顔はフードの奥に隠れて見えなかった。

通るたびに、同じ場所に、同じ姿で立っていた。

そして、必ず“こっちを見ている”ように感じられた。

その頃、私は気になって仕方がなかった。

怖いというよりも、不思議だったのだ。
なぜ、毎朝7時20分になると、あの人はそこにいるのか?

ある日、私は勇気を出して、声をかけてみようと決めた。

だが、近づいてみると、驚いたことに――

その人は、こちらのほうを向いていなかった。

いや、もっと正確に言えば――顔がなかった。

のっぺらぼう、ではない。
そこに“顔があるべき場所”そのものが、存在していなかった。

ただ、空洞のような、闇のようなものが、フードの奥にぽっかりと開いていた。

私は立ち尽くした。
その人物は微動だにせず、ただそこに“いた”。

やがて、ブロック塀の隙間から風が吹き込み、フードが揺れた。

そのとき、ほんの一瞬――中から何かが覗いた。

瞳のような。
口のような。

いや、“私の顔”のようだった。

恐怖で動けなくなった私は、思わず目を閉じ、そして――
気づくと、学校の正門前にいた。

記憶がない。
いつの間にか、歩き出していたらしい。

あの日を境に、“裏の人”は毎朝、私を見送るようになった。

いや、違う。

“見送っている”のではなく――“見張っている”のかもしれない。

ある朝、裏の道を通らず、遠回りしてみた。

すると、帰り道にその人が現れた。

今度は、帰り道の角で立っていたのだ。

私は気づいた。

あの“裏の人”は、私が裏道を使った日しか、現れなかった。
けれど、“使わなかった日”は、違う場所で待っているのだ。

まるで、「道」のほうが“私の通るべきルート”を決めているように。

ある夜、夢を見た。

果てしなく続く裏道。
その両脇には、無数の“裏の人”たちが並んでいた。

みんな、同じ服。
同じ顔のなさ。
ただし、一人だけ、こちらに背を向けている者がいた。

私は近づいて、声をかけた。

「あなたは、誰?」

その人物は、ゆっくりと振り返った。

そこには、私の顔があった。

そして、その“私”は言った。

「きみが裏道に入ったときから、私はずっとここにいたよ」

「この道は一方通行。いつか表に戻れなくなる」

目が覚めたとき、私はベッドの中で汗をかいていた。

そして、スマホの画面に通知がひとつ。

《今日の通学ルート:裏道を通りますか? はい/いいえ》

答えた覚えはないのに、“はい”にチェックが入っていた。

そして今朝も、裏の道には、あの“裏の人”が立っている。

動かず、消えず、待ち続ける。

私が裏道を選び続けるかぎり、あの人はそこにいるのだ。

……あなたの通う道に、思い当たる“影”はありませんか?

―――――――――――――――――――――――

あとがき
第17話『裏の道、裏の人』をお読みいただき、ありがとうございました。

道はただの通路であるはずなのに、そこに“誰か”が立っているだけで、
それは“こちらを見ている空間”に変わってしまいます。

今回は、「通学路という習慣が選ぶ“恐怖”」を描いてみました。

次回は『第18話:呼んでいるのは、誰の声?』を予定しています。
電話やインターホン、“声”が聞こえるという現象が、本当に発信者によるものなのか――それを疑うきっかけになる話です。

―――――――――――――――――――――――

いいね・フォローのお願い
あなたが選んだ“道”に、もしも“誰か”が立っていたなら。
それは、記憶の中にいた“裏の人”かもしれません。

この話が少しでも心に残ったなら、ぜひ「いいね」や「フォロー」で、
この“百物語”に道しるべを。
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