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第18話:呼んでいるのは、誰の声?
しおりを挟む「おかえり」
インターホン越しに聞こえたのは、懐かしい声だった。
仕事からの帰宅途中、マンションのオートロックを解除しようとしたとき。
モニター画面が自動で点灯し、誰もいないエントランスを映し出す。
だが、音声だけが、はっきりと鳴ったのだ。
「おかえり」
その声は、もう五年も前に亡くなった母のものだった。
私は固まった。
幻聴だと思いたかった。
だが、画面には「録音・録画データあり」と表示されていた。
確認すると、音声はしっかりと保存されていた。
映像には誰も映っていない。
ただ、母の声だけが、確かに。
その夜、私は眠れなかった。
翌日、管理会社に問い合わせると、
「録音データは誤作動の可能性がある」「誰かのいたずらかもしれない」と言われた。
納得できなかった。
母の声は、あまりにもはっきりしていた。
そして数日後――今度はスマートフォンに着信が入った。
発信者不明。
留守番電話に、やはり“あの声”が残されていた。
「あなた、ちゃんと食べてる?」
優しく、穏やかな声。
母が生前、よく私にかけていた言葉だった。
スマホの発信履歴を確認しても、どこからかけてきたのかわからなかった。
通信会社にも調査を依頼したが、
「通話は存在しない」「ログが残っていない」との返答だった。
つまり、“かかってきた記録すらない”のに、音声だけが残っている。
私は混乱した。
けれど、不思議と怖くはなかった。
むしろ、どこか安心する気持ちすらあった。
それが、よくなかったのかもしれない。
それからというもの、“あの声”は頻繁に現れるようになった。
・風呂上がり、脱衣所の鏡から
・夜中、リビングにひとりいるときのテレビの電源OFF時
・帰宅時に開けた冷蔵庫の扉から
ありとあらゆる“反射”や“音の発信源”から、
母の声が届くようになった。
最初は懐かしかった。
次第に、声の内容が変わっていった。
「そこじゃないよ」
「そこには、いないよ」
「見つけられないの?」
まるで、私が何かを忘れていることを、繰り返し思い出させようとするようだった。
ある夜、夢の中で、母が現れた。
顔ははっきりしなかったが、確かに“母”だった。
そしてこう言った。
「ねえ、どうして、あのとき、呼んでくれなかったの?」
私は、何のことかわからなかった。
けれど――夢の中の私は、口を閉ざしたまま、目を逸らした。
翌朝、実家に連絡を入れた。
母の四十九日法要以来、何年も放置していた納戸に、
私がしまい込んだ“古いボイスレコーダー”が残っていた。
それは、母が生前、私に向けて残した“音声日記”のようなものだった。
再生すると、そこには無数の言葉が詰まっていた。
励まし、祈り、怒り、心配――そして、最後に。
「ねえ……これ、いつか聞いてくれるかな」
「わたしの声、ちゃんと届くかな」
私は泣いた。
聞かないふりをして、
見ないふりをして、
母の“想い”を遠ざけていた自分に、ようやく気づいた。
そして今――
もう一度、インターホンが鳴った。
「おかえり」
今度は、静かに、懐かしく。
母の声が、ふたたび私の中で“本物”になった気がした。
……けれど、最後にひとつだけ、妙なことがあった。
録音データのタイムスタンプを見ると、こう書かれていた。
《録音時刻:2029年11月24日 19:36》
今日は、2025年。
その“声”は、四年後から届いていた。
―――――――――――――――――――――――
あとがき
第18話『呼んでいるのは、誰の声?』をお読みいただき、ありがとうございました。
人は“声”に弱いものです。
文字より、映像より、記憶の深部に届くのが、音声であり、肉声であり、“呼びかけ”です。
今回の話では、そうした“音”が持つ情感と恐怖を交差させる形で構成しました。
次回は『第19話:足の数を、数えないで』を予定しています。
登山道、深夜バス、廊下――“そこにいる”ことよりも、“何がいるか”を数えるという行為自体が、危険であることを描きます。
―――――――――――――――――――――――
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