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第21話:その子は、何を拾ってきたの?
しおりを挟む小学校からの帰り道、妹が何かを“拾って”きた。
ビニール袋にそっと包み、大事そうに胸に抱えていた。
「なにそれ?」と聞いても、「ひみつ」と笑うだけ。
家の中で袋を開ける気配もないのに、妹の様子は明らかに変わった。
夜、部屋でひとり言をつぶやくようになった。
誰もいない方向に向かって、小さな声で話しかけるのだ。
最初はぬいぐるみにでも向かっているのかと思った。
けれど、そうではなかった。
妹は“袋”に話しかけていた。
白いビニール袋。何の変哲もない、スーパーのものだ。
けれど、その袋は、いつの間にか――動いていた。
いや、動いている“ように”見えた。
風もないのに、袋の口がふわりと揺れ、
ぴく、と何かが跳ねるように動いた。
私は怖くなって、親に相談しようとした。
だが、その日の夜、母が言った。
「あの子、最近誰かと仲良くなったみたいでね。いいことよ」
その笑顔が、どこか引きつっていた。
翌朝、妹の部屋に行くと、袋は消えていた。
代わりに、部屋の隅に“何か”がいた。
白い影のような、もやのような……ぼんやりとした存在。
それが、妹の肩に手を置くように立っていた。
私は声を出せず、そっとドアを閉じた。
その夜、夢を見た。
妹が、森の中で何かを拾っている夢だった。
地面の下から、小さな手が伸びていた。
妹は、ためらいなく、その手をつかんだ。
「さびしくない?」
「いっしょに、おうちかえろ?」
それは、人間の手ではなかった。
細くて、関節が多く、灰色で。
けれど、妹は嬉しそうに笑っていた。
目が覚めたとき、妹の部屋から歌が聞こえた。
古い子守唄のような、抑揚のない旋律。
その声は、ふたり分あった。
私は、恐る恐る部屋を覗いた。
妹はひとりで、鏡に向かって座っていた。
だが、鏡の中には、ふたりいた。
もうひとりは、妹のようで妹ではない。
目の位置が少しずれていて、口が大きく裂けていた。
その“もうひとり”が、こちらに気づいた瞬間――
鏡が、ひとりでに割れた。
妹は振り返らず、「だいじょうぶ」とだけ言った。
その日を境に、袋も、影も、現れなくなった。
けれど、妹は毎晩、空気に向かって「おやすみ」と言う。
そして、空になったはずの袋は、なぜか今も押し入れの奥にある。
何も入っていない。けれど、重さだけがある。
持ち上げると、中からごそりと音がするのだ。
袋には、小さくこう書かれていた。
「わすれもの」
「ひろってくれてありがとう」
「こんどは、そっちがくるばんだよ」
―――――――――――――――――――――――
あとがき
第21話『その子は、何を拾ってきたの?』をお読みいただきありがとうございました。
子どもは時に、境界を越えてしまうことがあります。
それが“純粋”だからこそ、異質なものと通じ合ってしまう。
この物語では、「持ち帰ってはいけないもの」
そして「優しさの代償」をテーマに描きました。
次回は『第22話:白いリボンをつけた女の子』を予定しています。
―――――――――――――――――――――――
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