26 / 102
第26話:真夜中のエレベーターは、地下四階に止まる
しおりを挟む
都内の大学に通っていた頃、友人のTが学生寮に住んでいた。
その寮は十階建ての古い建物で、中央に一基だけ小さなエレベーターがある。
何の変哲もない造りだったが、ひとつだけ不思議なことがあった。
エレベーターのパネルには、地下階のボタンが存在しなかった。
地下にはボイラー室があるらしいという話だったが、ボタンはなく、行く術もなかった。
しかし、ある夜。Tが深夜に帰宅したときのことだ。
エントランスから入った彼は、何気なくエレベーターを呼び出した。
ドアが開く。だが中は真っ暗だった。照明が切れていたのだろう。
それでも彼は乗った。
行き先階を押そうとしたとき、ふと目に入ったものがあった。
パネルの下の方――普段は何もないはずの位置に、
「B4(地下四階)」と表示されたボタンが、ぼんやりと光っていたというのだ。
それは、指で触れることもできないほど、かすかに浮かぶ幻のような灯りだった。
興味本位でそこを押してみると、
エレベーターが静かに、下へと動き始めた。
カウントは表示されない。
ただ、沈むような感覚だけが続く。
――長い。異様に長い。
やがて、カタン、と停止音が鳴り、扉がゆっくりと開いた。
そこには、黒い廊下が広がっていた。
電気もなく、音もなく、何もかもが“動いていない空間”。
コンクリート打ちっぱなしの壁。
むっとするような湿気。
空気が、何かの死骸のような匂いを孕んでいた。
Tは、そこで見たという。
“立ち入り禁止”の札を持った制服姿の少年が、こちらに背を向けて立っていたのを。
制服は、Tの通う大学のもの。だが、その少年の姿は数十年前の学生のようだった。
「……誰かが、こっちに来る」
Tがそう呟いた瞬間、少年がこちらを振り向きかけた。
その顔が、影になって見えなかった――
のではない。
そこには、顔がなかった。
目も鼻も口も、何もない。
ただ、皮膚がぴたりと伸びた白い仮面のような“顔の代わり”が、ゆっくりこちらに向けられたのだ。
Tは反射的に「閉」ボタンを連打した。
エレベーターは、何もなかったかのように再び動き出し、
気がつくと元の一階に戻っていた。
それ以来、「B4」のボタンは二度と現れなかった。
が、Tは今でも言う。
「夜中の三時ちょうどに、あのエレベーターを呼ぶと、ときどき“階数がひとつ多い”ことがある」
誰がそこに降りたのかはわからない。
そして今でも、“それ”はあの地下で誰かを待っている。
きっと、また誰かが「B4」に降りてくる日を。
―――――――――――――――――――――――
あとがき
第26話『真夜中のエレベーターは、地下四階に止まる』をお読みいただきありがとうございました。
エレベーターという閉じた空間は、現実と異界を繋ぐ“乗り物”にもなり得ます。
もしあなたのエレベーターが、知らない階に止まったとき――
降りるべきかどうか、よく考えてから決めてください。
次回は『第27話:彼女の写真は、まばたきをしていた』を予定しております。
―――――――――――――――――――――――
いいね・フォローのお願い
もしあなたの家のエレベーターに「見たことのない階」が現れたら――
怖いと思ったその感覚を、ぜひ「いいね」と「フォロー」で形にしてください。
この怪談の灯を、あなたの指先でつないでください。
その寮は十階建ての古い建物で、中央に一基だけ小さなエレベーターがある。
何の変哲もない造りだったが、ひとつだけ不思議なことがあった。
エレベーターのパネルには、地下階のボタンが存在しなかった。
地下にはボイラー室があるらしいという話だったが、ボタンはなく、行く術もなかった。
しかし、ある夜。Tが深夜に帰宅したときのことだ。
エントランスから入った彼は、何気なくエレベーターを呼び出した。
ドアが開く。だが中は真っ暗だった。照明が切れていたのだろう。
それでも彼は乗った。
行き先階を押そうとしたとき、ふと目に入ったものがあった。
パネルの下の方――普段は何もないはずの位置に、
「B4(地下四階)」と表示されたボタンが、ぼんやりと光っていたというのだ。
それは、指で触れることもできないほど、かすかに浮かぶ幻のような灯りだった。
興味本位でそこを押してみると、
エレベーターが静かに、下へと動き始めた。
カウントは表示されない。
ただ、沈むような感覚だけが続く。
――長い。異様に長い。
やがて、カタン、と停止音が鳴り、扉がゆっくりと開いた。
そこには、黒い廊下が広がっていた。
電気もなく、音もなく、何もかもが“動いていない空間”。
コンクリート打ちっぱなしの壁。
むっとするような湿気。
空気が、何かの死骸のような匂いを孕んでいた。
Tは、そこで見たという。
“立ち入り禁止”の札を持った制服姿の少年が、こちらに背を向けて立っていたのを。
制服は、Tの通う大学のもの。だが、その少年の姿は数十年前の学生のようだった。
「……誰かが、こっちに来る」
Tがそう呟いた瞬間、少年がこちらを振り向きかけた。
その顔が、影になって見えなかった――
のではない。
そこには、顔がなかった。
目も鼻も口も、何もない。
ただ、皮膚がぴたりと伸びた白い仮面のような“顔の代わり”が、ゆっくりこちらに向けられたのだ。
Tは反射的に「閉」ボタンを連打した。
エレベーターは、何もなかったかのように再び動き出し、
気がつくと元の一階に戻っていた。
それ以来、「B4」のボタンは二度と現れなかった。
が、Tは今でも言う。
「夜中の三時ちょうどに、あのエレベーターを呼ぶと、ときどき“階数がひとつ多い”ことがある」
誰がそこに降りたのかはわからない。
そして今でも、“それ”はあの地下で誰かを待っている。
きっと、また誰かが「B4」に降りてくる日を。
―――――――――――――――――――――――
あとがき
第26話『真夜中のエレベーターは、地下四階に止まる』をお読みいただきありがとうございました。
エレベーターという閉じた空間は、現実と異界を繋ぐ“乗り物”にもなり得ます。
もしあなたのエレベーターが、知らない階に止まったとき――
降りるべきかどうか、よく考えてから決めてください。
次回は『第27話:彼女の写真は、まばたきをしていた』を予定しております。
―――――――――――――――――――――――
いいね・フォローのお願い
もしあなたの家のエレベーターに「見たことのない階」が現れたら――
怖いと思ったその感覚を、ぜひ「いいね」と「フォロー」で形にしてください。
この怪談の灯を、あなたの指先でつないでください。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
最終死発電車
真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。
直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。
外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。
生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。
「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/1/2:『そうしき』の章を追加。2026/1/9の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/1:『いえい』の章を追加。2026/1/8の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる