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第28話:人形は知らない間に、向きを変えている

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俺の祖母は、古い日本人形を集めるのが趣味だった。
薄暗い仏間に、大小さまざまな人形が並べられたガラスケースがあり、
来客はたいてい、その異様な“視線の密度”に息を呑んだ。

「この子たちはね、長くいると馴染むのよ」

そう言って祖母は笑ったが、俺はどうしても好きになれなかった。
特に、一体だけ、どうしても目を合わせたくない人形があった。

黒髪のおかっぱ。白い着物に、微笑んでいるような顔。
名前はないが、祖母はその子だけ“あの子”と呼んでいた。

ある夏、祖母が入院したため、俺は数日間、その家に一人で泊まることになった。

日中はどうということはない。
問題は、夜だった。

夜中にトイレへ行こうと廊下を歩いていたとき、
ふと仏間の引き戸が少しだけ開いているのに気づいた。

風だろうと思った。
だが、視線が何かを捉えた。

――あの人形が、ケースの中で“こちらを見ていた”。

いや、正確には、首の向きが変わっていた。

あの子は、左を向いているはずだった。
それが、正面を、いや、俺を真正面から見ていたのだ。

その夜は無理やり寝た。

翌朝、気になって仏間を確認したが、
人形は元の向きに戻っていた。
まるで、すべてが夢だったかのように。

三日目の夜。
ふと目が覚めると、耳元で“ちりん”という微かな音がした。

鈴のような音。
でも、そんなものは部屋にない。

怖くなって布団から出ると、廊下に何かが落ちていた。
――人形の髪の毛の束だった。

その瞬間、仏間から、コン、と何かがぶつかる音がした。

もう見たくない。だが、足が勝手に向かう。

引き戸をそっと開けると、
ガラスケースの中、あの人形の首が180度、背中側に回っていた。

だがその顔は、やはり、笑っていた。

次の日、祖母の見舞いに行った俺に、祖母は静かに言った。

「……あの子、来たでしょう」

俺は何も言えなかった。

祖母は言う。

「あの子は、動けないの。でも、ずっと見ているの。
あんたが誰よりも“視線を向けてくれた”から、喜んでるのよ」

それ以来、俺の部屋の隅に、いつのまにか小さな人形が増えていた。

首の向きは、いつも――俺の方を向いている。

―――――――――――――――――――――――

あとがき
第28話『人形は知らない間に、向きを変えている』をお読みいただきありがとうございました。

人形には魂が宿る、という言葉があります。
その“宿ったもの”が、どこを見ているのか、何を想っているのか――
知りたくないけれど、知ってしまうと目が離せなくなる。

次回は『第29話:山のふもとで拾った小石は、夜になると動く』を予定しています。

―――――――――――――――――――――――

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