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第30話:学校の鏡は、閉校の日にだけ開く
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俺の通っていた小学校は、数年前に閉校になった。
過疎化が進み、在校生が十人を切ったからだ。
閉校式の日、卒業生や地元の人が集まり、
小さな体育館で式典が行われた。
俺は中学三年になっていたが、
当時の友人たちと連れ立って、校舎の中を見て回った。
懐かしい匂い、軋む床板。
そして、誰ともなく言い出した。
「――理科室、覚えてるか?」
そこには、大きな姿見の鏡があった。
実験用の映像を投影するために設置された鏡で、
なぜか、向かい合わせに二枚並んでいて、
その間に立つと、無限に自分の姿が続いて見えるようになっていた。
誰かが言った。
「閉校の日、あの鏡に立つと“本物じゃない自分”が混ざってるって話、あったよな」
懐かしい怪談話。
たしか、学年に一人は信じてるやつがいたっけ。
でも俺たちはもう子どもじゃなかった。
誰も怖がらず、むしろ懐かしさとノスタルジーで、
それを“やってみよう”という話になった。
理科室に着くと、埃をかぶった鏡が二枚、向かい合わせに鎮座していた。
少し緊張しながら、そのあいだに立つ。
自分が、無限に連なっていく。
だが、その中の三人目が、少しだけ、口元を動かした。
……いや、誰かの冗談だと思った。
「お前、いま笑ったろ」「いや、俺じゃない」
そう言い合いながら、俺たちは一人ずつその間に立ち、
スマホで動画を撮ることにした。
問題は、夜だった。
家に帰り、撮影した動画を確認していた。
最初の十秒は何もない。自分が映っているだけ。
だが、動画の終盤、画面の奥――
無限に連なる“俺たち”のうち、いちばん奥の一人が動いた。
それだけが、こっちに手を振っていた。
止めようとしたのに、スマホは勝手に再生され続け、
画面の“あいつ”は、次の瞬間――笑った。
「また、来いよ」
音声は録音されていないはずの、
俺たちの声ではない、低くて擦れた声だった。
翌日、動画は消えていた。
スマホのフォルダにも、クラウドにも残っていない。
だが、俺の夢には、あの“自分”が立っている。
次の閉校は、たぶん数年後のあの村の中学校。
そして、また誰かが、あの鏡の前に立つのだろう。
気づかないまま、自分とすり替わるために。
―――――――――――――――――――――――
あとがき
第30話『学校の鏡は、閉校の日にだけ開く』をお読みいただき、ありがとうございました。
鏡の中には“もうひとつの世界”がある、
そんな話を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
閉じた学校、誰もいない教室、無限に連なる自分。
すべてが“揺らぐ”その瞬間に、本当の怖さが潜んでいるのかもしれません。
次回は『第31話:読まれていない卒業文集が、誰かの名前を増やしていた』を予定しています。
―――――――――――――――――――――――
いいね・フォローのお願い
もし、あなたの母校にも“大きな鏡”があったなら――
もう一度、訪れてみてください。
鏡の中の“あなた”が、本当にあなたかどうか。
それは、見なければわからない。
続きを読みたい方は、「いいね」と「フォロー」で応援いただけると嬉しいです。
過疎化が進み、在校生が十人を切ったからだ。
閉校式の日、卒業生や地元の人が集まり、
小さな体育館で式典が行われた。
俺は中学三年になっていたが、
当時の友人たちと連れ立って、校舎の中を見て回った。
懐かしい匂い、軋む床板。
そして、誰ともなく言い出した。
「――理科室、覚えてるか?」
そこには、大きな姿見の鏡があった。
実験用の映像を投影するために設置された鏡で、
なぜか、向かい合わせに二枚並んでいて、
その間に立つと、無限に自分の姿が続いて見えるようになっていた。
誰かが言った。
「閉校の日、あの鏡に立つと“本物じゃない自分”が混ざってるって話、あったよな」
懐かしい怪談話。
たしか、学年に一人は信じてるやつがいたっけ。
でも俺たちはもう子どもじゃなかった。
誰も怖がらず、むしろ懐かしさとノスタルジーで、
それを“やってみよう”という話になった。
理科室に着くと、埃をかぶった鏡が二枚、向かい合わせに鎮座していた。
少し緊張しながら、そのあいだに立つ。
自分が、無限に連なっていく。
だが、その中の三人目が、少しだけ、口元を動かした。
……いや、誰かの冗談だと思った。
「お前、いま笑ったろ」「いや、俺じゃない」
そう言い合いながら、俺たちは一人ずつその間に立ち、
スマホで動画を撮ることにした。
問題は、夜だった。
家に帰り、撮影した動画を確認していた。
最初の十秒は何もない。自分が映っているだけ。
だが、動画の終盤、画面の奥――
無限に連なる“俺たち”のうち、いちばん奥の一人が動いた。
それだけが、こっちに手を振っていた。
止めようとしたのに、スマホは勝手に再生され続け、
画面の“あいつ”は、次の瞬間――笑った。
「また、来いよ」
音声は録音されていないはずの、
俺たちの声ではない、低くて擦れた声だった。
翌日、動画は消えていた。
スマホのフォルダにも、クラウドにも残っていない。
だが、俺の夢には、あの“自分”が立っている。
次の閉校は、たぶん数年後のあの村の中学校。
そして、また誰かが、あの鏡の前に立つのだろう。
気づかないまま、自分とすり替わるために。
―――――――――――――――――――――――
あとがき
第30話『学校の鏡は、閉校の日にだけ開く』をお読みいただき、ありがとうございました。
鏡の中には“もうひとつの世界”がある、
そんな話を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
閉じた学校、誰もいない教室、無限に連なる自分。
すべてが“揺らぐ”その瞬間に、本当の怖さが潜んでいるのかもしれません。
次回は『第31話:読まれていない卒業文集が、誰かの名前を増やしていた』を予定しています。
―――――――――――――――――――――――
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もし、あなたの母校にも“大きな鏡”があったなら――
もう一度、訪れてみてください。
鏡の中の“あなた”が、本当にあなたかどうか。
それは、見なければわからない。
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