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第32話:切り抜いた制服のボタンが、夜ごと戻ってくる

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制服のボタンって、なぜか捨てづらい。

高校を卒業するとき、
好きだった先輩の第二ボタンをもらった子もいたし、
自分の制服からボタンを外して、記念に残している奴もいた。

俺もそうだった。
卒業式のあと、上着のボタンを全部外して、小さな箱にしまっておいた。

社会人になって数年後。
実家の押し入れを片付けていると、その箱が出てきた。

懐かしくて蓋を開けたそのとき――
ボタンが、ひとつ、多かった。

5個のはずが、6個あった。

……いや、予備のボタンか?

そう思って手に取ると、6つ目のボタンには、血のような染みがついていた。

気味が悪くなって、それだけ取り除こうとした。
だが、翌朝にはまた、元通り6つ並んでいた。

不思議に思いながらも、そのまま蓋を閉じてしまったが、
夜になると、部屋の中で何かが“コトン”と音を立てるようになった。

机の上、床の隅、枕元――
気づくと、あの血のような染みのボタンが、どこかに転がっている。

何度も捨てた。ゴミに出した。
河に投げ込んだことすらある。

でも、翌朝には必ず“戻って”くる。
自分の部屋、あるいはポケット、靴の中。

その日、ふと気になって卒業アルバムを開いた。
クラス写真を見ていると、あることに気づいた。

俺の右隣にいたはずの同級生、村田が、写っていない。

いや、そんなはずはない。
彼は俺の親友で、卒業式の日に、
「お前にもやるよ」と言って、上着の第二ボタンをくれたんだ。

そう。
あの6つ目のボタンは、村田のものだった。

慌ててボタンの裏を見ると、そこにはうっすらと名前が彫ってあった。

「MURATA」

記憶の中の村田は、あの卒業式から一度も会っていない。
連絡先も知らない。SNSにもいない。
まるで――最初から存在していなかったかのように。

ただ、ボタンだけが残っている。

それが毎夜、俺の部屋へと“帰って”くる。

今日もどこかで、
“忘れられた誰か”が、自分の場所を探している。

制服のボタンを通して。

―――――――――――――――――――――――

あとがき
第32話『切り抜いた制服のボタンが、夜ごと戻ってくる』をお読みいただきありがとうございました。

卒業という節目には、多くの想いが詰まっています。
その象徴として、制服のボタンという“形”が残るのは、特に日本的な習慣かもしれません。

でも、それが“何かの記憶”や“誰かの存在”とつながっていたとしたら?
物が物でなくなるとき、人は――思い出すのではなく、“思い出させられる”のです。

次回は『第33話:閉店したゲームセンターのスコアボードに、誰もいない名前が残り続けている』を予定しています。

―――――――――――――――――――――――

いいね・フォローのお願い
あなたの家にも、昔のボタンや記念品が残っていませんか?
ふと手に取ってみて、“名前”が書かれていたなら――
忘れてはいけない誰かが、今も見ているのかもしれません。

続きを楽しみにしてくださる方は、「いいね」と「フォロー」で、次の語り部の灯をともしてください。
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