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第33話:閉店したゲームセンターのスコアボードに、誰もいない名前が残り続けている
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駅前にあった古びたゲームセンターが、ある日突然閉店した。
「ゲーセンレイン」。昭和の名残のような、ネオンがチカチカと瞬く場所だった。
時代に取り残されたようなその建物には、UFOキャッチャーもダンスゲームもなく、
あるのは、昔ながらのシューティングゲームや、レトロな格闘ゲームばかりだった。
それでも俺はあの店が好きだった。
放課後に、100円玉を数枚握りしめて入り浸った日々。
静かに流れるBGM、機械の熱、古びた椅子の軋み。
全部がどこか、居場所のようだった。
閉店を知ったのは、帰省中に見た新聞の片隅。
それを見て、自然と足が向いた。
店はすでにシャッターが降り、窓も板で打ちつけられていた。
それでも、なぜか裏口の扉はわずかに開いていた。
躊躇いながら中へと足を踏み入れると、
機械の電源はすでに落ちていたが、ただひとつだけ、
奥の壁際のシューティングゲーム筐体だけが、かすかに明かりを灯していた。
「RAVEN DUSK」――その名前のマイナーゲームを知る者は少ない。
薄暗いステージで、プレイヤーは“記憶を失った戦士”として敵を撃ち倒していく。
人気はなかったが、俺は妙にこのゲームに執着していた。
それは、どこか自分の心に似ていたからかもしれない。
筐体のスクリーンには、スコアランキングが表示されていた。
懐かしさから、ふと自分の名前“JUN”を探す――が、そこにはなかった。
代わりに、すべての順位に同じ名前が並んでいた。
「NAOKO」
誰だ、それは。
見覚えのない名前。記憶にないプレイヤー。
けれども、心の奥のほうが疼くような、懐かしさがあった。
俺はふと、あのゲームにまつわる記憶を掘り返した。
中学の頃、たしかに一人だけ、いつも先にプレイしていた人がいた。
話したこともなかった。名前も知らない。
でも、毎日同じ時間に同じ筐体に座り、黙々と遊んでいた、
――長い髪を後ろで束ねた女子学生。
「NAOKO」は、彼女の名前だったのか。
ふと、筐体のスピーカーから微かに音が流れ始めた。
BGMでも効果音でもない。誰かの声だった。
「また、来てくれたんだね」
それは、聞き覚えのない――けれども、なぜか懐かしい、少女の声。
そして、画面が変わる。
ランキングの“NAOKO”の文字が一つだけ消え、
空白の1位に、**「JUN」**の文字が浮かび上がった。
次の瞬間、周囲の機械がすべていっせいに電源を入れたように光り、
部屋の空気が熱を帯び、あの頃のゲーセンのざわめきが、幻のように甦る。
「これで、思い出してくれた」
再び聞こえた声とともに、照明が一斉に落ちた。
気がつくと俺は、真っ暗なゲーセンの中に一人だった。
さっきまでの光も音も、幻だったかのように消えていた。
だが、ポケットの中に硬く冷たいものがあった。
それは、あのゲームのコインだった。
裏には“NAOKO”の名前が彫られていた。
今もそのコインは、俺の部屋の机の引き出しにしまってある。
時々、ふと勝手に引き出しが開き、そのコインが出てくることがある。
それはきっと――
誰かの“最終スコア”が、まだ更新を待っているということなのだろう。
―――――――――――――――――――――――
あとがき
第33話『閉店したゲームセンターのスコアボードに、誰もいない名前が残り続けている』をお読みいただき、ありがとうございました。
レトロゲームの中には、プレイした人の記憶が染みついています。
画面越しの時間、失われた街角、そして名も知らぬ誰かとの“すれ違い”。
誰かのハイスコアは、ただの数字ではなく、
忘れ去られた対話の痕跡なのかもしれません。
次回は『第34話:夜間通行禁止の地下道に、名札をぶらさげた子供が立っている』を予定しています。
―――――――――――――――――――――――
いいね・フォローのお願い
もし、昔通ったゲーセンや思い出の場所が今も残っているなら――
一度、訪ねてみてください。
誰かがまだ、スコアを更新してくれるのを待っているかもしれません。
応援してくださる方は、「いいね」と「フォロー」で、次の物語へと灯火をつないでください。
「ゲーセンレイン」。昭和の名残のような、ネオンがチカチカと瞬く場所だった。
時代に取り残されたようなその建物には、UFOキャッチャーもダンスゲームもなく、
あるのは、昔ながらのシューティングゲームや、レトロな格闘ゲームばかりだった。
それでも俺はあの店が好きだった。
放課後に、100円玉を数枚握りしめて入り浸った日々。
静かに流れるBGM、機械の熱、古びた椅子の軋み。
全部がどこか、居場所のようだった。
閉店を知ったのは、帰省中に見た新聞の片隅。
それを見て、自然と足が向いた。
店はすでにシャッターが降り、窓も板で打ちつけられていた。
それでも、なぜか裏口の扉はわずかに開いていた。
躊躇いながら中へと足を踏み入れると、
機械の電源はすでに落ちていたが、ただひとつだけ、
奥の壁際のシューティングゲーム筐体だけが、かすかに明かりを灯していた。
「RAVEN DUSK」――その名前のマイナーゲームを知る者は少ない。
薄暗いステージで、プレイヤーは“記憶を失った戦士”として敵を撃ち倒していく。
人気はなかったが、俺は妙にこのゲームに執着していた。
それは、どこか自分の心に似ていたからかもしれない。
筐体のスクリーンには、スコアランキングが表示されていた。
懐かしさから、ふと自分の名前“JUN”を探す――が、そこにはなかった。
代わりに、すべての順位に同じ名前が並んでいた。
「NAOKO」
誰だ、それは。
見覚えのない名前。記憶にないプレイヤー。
けれども、心の奥のほうが疼くような、懐かしさがあった。
俺はふと、あのゲームにまつわる記憶を掘り返した。
中学の頃、たしかに一人だけ、いつも先にプレイしていた人がいた。
話したこともなかった。名前も知らない。
でも、毎日同じ時間に同じ筐体に座り、黙々と遊んでいた、
――長い髪を後ろで束ねた女子学生。
「NAOKO」は、彼女の名前だったのか。
ふと、筐体のスピーカーから微かに音が流れ始めた。
BGMでも効果音でもない。誰かの声だった。
「また、来てくれたんだね」
それは、聞き覚えのない――けれども、なぜか懐かしい、少女の声。
そして、画面が変わる。
ランキングの“NAOKO”の文字が一つだけ消え、
空白の1位に、**「JUN」**の文字が浮かび上がった。
次の瞬間、周囲の機械がすべていっせいに電源を入れたように光り、
部屋の空気が熱を帯び、あの頃のゲーセンのざわめきが、幻のように甦る。
「これで、思い出してくれた」
再び聞こえた声とともに、照明が一斉に落ちた。
気がつくと俺は、真っ暗なゲーセンの中に一人だった。
さっきまでの光も音も、幻だったかのように消えていた。
だが、ポケットの中に硬く冷たいものがあった。
それは、あのゲームのコインだった。
裏には“NAOKO”の名前が彫られていた。
今もそのコインは、俺の部屋の机の引き出しにしまってある。
時々、ふと勝手に引き出しが開き、そのコインが出てくることがある。
それはきっと――
誰かの“最終スコア”が、まだ更新を待っているということなのだろう。
―――――――――――――――――――――――
あとがき
第33話『閉店したゲームセンターのスコアボードに、誰もいない名前が残り続けている』をお読みいただき、ありがとうございました。
レトロゲームの中には、プレイした人の記憶が染みついています。
画面越しの時間、失われた街角、そして名も知らぬ誰かとの“すれ違い”。
誰かのハイスコアは、ただの数字ではなく、
忘れ去られた対話の痕跡なのかもしれません。
次回は『第34話:夜間通行禁止の地下道に、名札をぶらさげた子供が立っている』を予定しています。
―――――――――――――――――――――――
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もし、昔通ったゲーセンや思い出の場所が今も残っているなら――
一度、訪ねてみてください。
誰かがまだ、スコアを更新してくれるのを待っているかもしれません。
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