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第34話:夜間通行禁止の地下道に、名札をぶらさげた子供が立っている

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駅前の交差点から東へ歩いて五分、
市役所の裏手を抜けた先に、ひとつの地下道がある。

昼間は通学路としても使われており、
近隣の高校生やサラリーマンが足早に行き交う場所だ。

だが、その地下道には、**「夜間通行禁止」**の札が掲げられている。
市の条例で22時から翌朝5時まで封鎖されるのだ。

理由は、明確には語られていない。
治安対策とも、防犯のためとも、関係者は濁すばかりだった。

けれど、地元では昔から“ある噂”が囁かれていた。

「夜中の地下道には、子供が立っている」

年齢は六~七歳ほど。
青い帽子に黄色いランドセル、制服の上着。
どこにでもいる小学生のような格好だという。

けれど、その子は、
顔が、見えない。

暗がりに立っているからではない。
帽子で隠れているからでもない。

近づいても、のぞき込んでも、
顔の部分が“霞んで”いて、どうしても見えないのだという。

名前を呼びかけても返事はなく、
ただ、首から提げた名札だけが、薄明かりの中でゆれている。

「タカハシ ケンタ」

その名前に、何人かは心当たりを持ったという。

20年ほど前、あの地下道で一人の小学生が姿を消した。
当時の記録は今や風化し、ネットにも載っていない。
だが古い新聞をあたれば、ほんのわずかにその痕跡が残っている。

ある冬の夜、タカハシ・ケンタくんが家に帰る途中、
地下道の中で“消えた”――
防犯カメラには入る瞬間まで映っていた。
だが出る姿は記録されていなかった。

その日以降、彼は行方不明のままだ。

彼の家族は引っ越し、今やその痕跡もない。
だが“彼の名札”だけは、夜の地下道にぶら下がっているという。

ある夜、好奇心に駆られて、俺はその地下道へ足を踏み入れた。

時刻は深夜0時。
金属のシャッターは半分ほど下りていたが、横に隙間があった。

ゆっくりと足を進めると、ひんやりとした空気に頬を打たれた。

一歩、また一歩。

奥へと進むうち、前方に何かが見えた。

それは――小さな子供の影だった。

帽子をかぶり、ランドセルを背負い、うつむいている。
間違いない、噂どおりの姿。

だがその瞬間、携帯電話が震えた。
画面には「非通知」の文字。
胸騒ぎを覚えながら通話ボタンを押す。

すると、聞こえたのは――
「……ぼく、ここにいるよ」

耳元でささやかれた声と同時に、
地下道の照明が、すべて落ちた。

真っ暗な中で、目の前に立つ影だけが、白く浮かび上がる。

名札がゆれた。

そこには、たしかに――

「タカハシ ケンタ」

一文字ずつ、赤黒くにじんでいた。

次の瞬間、俺の意識は途切れた。

目が覚めたとき、俺は地下道の入り口に倒れていた。
時計を見ると、すでに午前4時半。

ポケットには、黄色い名札が入っていた。

“タカハシ ケンタ”と記された、あの名札が――。

今も俺の部屋の引き出しにそれはある。
二度と戻しに行く勇気はない。
なぜなら――

あの地下道は、もう“存在していない”のだから。

翌日、市役所に問い合わせると、
「その場所に地下道などはない」という返答が返ってきた。

だが、確かに俺はそこを歩いた。
そして、“彼”と出会った。

夜の街に、地図にない道がある。
その先に、“地図にない記憶”が待っている。

―――――――――――――――――――――――

あとがき
第34話『夜間通行禁止の地下道に、名札をぶらさげた子供が立っている』をお読みいただき、ありがとうございました。

都市の片隅には、地図に載らない場所がいくつもあります。
そこに足を踏み入れたとき、私たちは過去に“触れてしまう”のかもしれません。

“名札”というのは、名前と存在を結ぶ印です。
もし忘れられた存在がその名を残すとしたら、
それは誰かに覚えていてほしいから。

次回は『第35話:空き部屋のドアポストに届く、差出人不明の“遺書”』を予定しています。

―――――――――――――――――――――――

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