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第36話:壊された時計の針が、毎年命日だけ動き出す

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その時計は、もう動かないはずだった。

木造の古民家。
土間の隅に据えつけられた、古ぼけた柱時計。

むかし曽祖父が大工仲間からもらったというその時計は、
重く、頑丈で、しかし何十年も前に落雷で壊れたと聞いた。

ネジを巻いても、針は動かない。
振り子も、ぴたりと止まったまま。
ガラスの奥では、埃をかぶった時刻が「午前3時17分」を指したままだった。

家族はそれを“飾り”として扱い、
誰も気に留めなくなっていた。

けれど、ある年の夏――
七月十七日、午前三時。

俺はふと目を覚ました。

階下の柱時計から、**「カチ、カチ、カチ」**と
針が刻む音が響いていた。

最初は夢だと思った。

だが、階段を降り、暗い居間へ足を踏み入れたとき、
確かに時計の針が動いていた。

秒針は静かに進み、長針と短針は「3時19分」を指していた。

俺がその場で見つめる間にも、秒針は止まらず進み続けた。
だが、午前3時23分を過ぎたとき、針は唐突に止まった。

「……なんだったんだ」

家族に話しても信じてもらえなかった。

しかし、それから毎年――
七月十七日の午前3時17分ちょうどに、
柱時計の秒針は“再び動き出す”ようになった。

その日は、祖母の命日だった。

当時小学生だった俺は、ぼんやりと葬儀の日の記憶を覚えている。
台風の夜、窓の外で雷が鳴ったとき、
祖母の部屋から突然、柱時計が落ちたと聞いた。

それが、あの時計だった。

祖母が亡くなった“その瞬間”に、
時計は落ち、壊れたのだという。

だからこそ、止まった時間が「3時17分」だった。

なのに、なぜ毎年その時刻に、
壊れたはずの時計が動き出すのか。

理由はわからない。

だが、ある年の七月十七日、
俺が婚約者を連れて帰省した夜――
彼女が祖母の仏壇に花を手向けたとき、
柱時計が三度、鳴った。

ボン、ボン、ボン――

時を刻む音ではなく、鐘の音だった。

その瞬間、彼女は驚いたように言った。

「……いま、声がした気がする。
“あの子で、よかった”って――女の人の声」

俺は背筋が凍った。
だが、同時に少しだけ、涙がにじんだ。

祖母は、生前ずっと俺の将来を心配していた。

もしあの時計が、
“あの瞬間”を今も刻み続けているのだとしたら――
祖母の想いが、
毎年“生き返る”その刹那に、
ほんの少しだけこの世界へ戻ってくるのかもしれない。

時計は再び、沈黙した。

だが、次の七月十七日が来るまで、
俺はもう、あの音を“恐れていない”。

それは、ただの音ではなく――
**誰かの「時を越えた愛情」**かもしれないから。

―――――――――――――――――――――――

あとがき
第36話『壊された時計の針が、毎年命日だけ動き出す』をお読みいただき、ありがとうございました。

止まった時間には、意味が宿ることがあります。
それが故人の命日であったなら、
なおのこと――その瞬間は、誰かの記憶に強く焼きついている。

時計が時を刻むとは、過去と今をつなぐことなのかもしれません。

次回は『第37話:名前のない墓の前で泣く女の子は、誰の記憶にもいない』を予定しています。

―――――――――――――――――――――――

いいね・フォローのお願い
もしあなたの家にも、もう動かない古い時計があるのなら――
それは、誰かの“記憶”を刻み続けているのかもしれません。

この百の語りが、あなたに届くことを願っています。
ぜひ、「いいね」と「フォロー」で、次の物語をお待ちください。
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