41 / 102
第40話:最後の警備記録、映っていた“いないはずの人物”
しおりを挟む
大型商業施設の夜間警備をしていた頃の話だ。
そのビルは都心にある新しいショッピングモールで、
最新の監視カメラが無数に設置されていた。
警備室には、夜通し映像が映し出される巨大なモニターが並び、
俺はその中のひとつ、エントランスホールの映像を見ていた。
時刻は深夜2時すぎ。
自動ドアがゆっくりと開いた。
だが――センサーが反応するには、人の接近が必要だ。
それなのに、誰もそこにいなかった。
「……また誤作動か?」
そう思いながら映像を巻き戻し、再確認した。
すると――画面の隅、観葉植物の陰から、
スーツ姿の女がふらりと現れていた。
長い髪。下を向いたまま、まるで眠っているような足取り。
だが、次の瞬間、画面がノイズ混じりに乱れ、女の姿は消えた。
その後、警備記録を保存するために、バックアップサーバーから該当映像を取り出そうとした。
しかし、その時間帯の記録だけ、すっぽりと抜け落ちていた。
不審に思い、同僚の警備員に話すと、彼は顔をこわばらせた。
「……それ、たぶん“白石さん”だよ」
「白石さん?」
「三年前にさ、このビルの建設中に墜落事故で亡くなった女性設計士。
当時の警備員がさ、何度か深夜の記録映像に彼女を見たって言ってた」
さらに調べてみると、
その女性が最後に手がけていたのが、まさにあのエントランスホールだったという。
設計段階で予期せぬ工期変更が重なり、
連日徹夜続きの末に、疲労と不注意で足場から転落――
誰にも見守られず、照明の消えた夜のビルでひとり、
彼女は最期を迎えた。
以来、深夜2時を過ぎた頃になると、カメラに“誰かが歩く姿”が映るという噂が、警備員の間で囁かれていた。
その人物は、顔を見せない。
ただ、ゆっくりとホールを横切り、
そして、自動ドアの前で消える。
“誰かを待っている”ようにも、“出ていこうとしている”ようにも見えるという。
俺は、その日以来、
夜の映像を巻き戻すことをやめた。
見てしまったら、
次は自分が“記録される側”になる気がしたからだ。
きっと、あの時の彼女も、
画面の向こうから誰かに気づかれるのを待っていたのだろう。
でも、誰も気づかず――
だから今も、同じ時間、同じ場所に立ち続けている。
あなたが監視カメラの映像を見たとき、
もし“いないはずの誰か”がそこにいたら、
その人は、何年も前から、ずっとあなたを見ていたのかもしれない。
―――――――――――――――――――――――
あとがき
第40話『最後の警備記録、映っていた“いないはずの人物”』をお読みいただき、ありがとうございました。
記録というものは、残すためにあると同時に、
時として“忘れてはいけないこと”を突きつけてきます。
見てしまったこと、記録されていたこと。
それが過去の断片だと信じたいのは、私たち自身なのかもしれません。
次回は『第41話:誰も住んでいない空き家から届いた手紙』を予定しています。
―――――――――――――――――――――――
いいね・フォローのお願い
監視カメラは、すべてを見ているわけではありません。
でも、“見てはいけないもの”だけは、なぜか必ず映る。
そんな話が、まだまだ続きます。
よろしければ「いいね」と「フォロー」で、百の物語の最後までお付き合いください。
そのビルは都心にある新しいショッピングモールで、
最新の監視カメラが無数に設置されていた。
警備室には、夜通し映像が映し出される巨大なモニターが並び、
俺はその中のひとつ、エントランスホールの映像を見ていた。
時刻は深夜2時すぎ。
自動ドアがゆっくりと開いた。
だが――センサーが反応するには、人の接近が必要だ。
それなのに、誰もそこにいなかった。
「……また誤作動か?」
そう思いながら映像を巻き戻し、再確認した。
すると――画面の隅、観葉植物の陰から、
スーツ姿の女がふらりと現れていた。
長い髪。下を向いたまま、まるで眠っているような足取り。
だが、次の瞬間、画面がノイズ混じりに乱れ、女の姿は消えた。
その後、警備記録を保存するために、バックアップサーバーから該当映像を取り出そうとした。
しかし、その時間帯の記録だけ、すっぽりと抜け落ちていた。
不審に思い、同僚の警備員に話すと、彼は顔をこわばらせた。
「……それ、たぶん“白石さん”だよ」
「白石さん?」
「三年前にさ、このビルの建設中に墜落事故で亡くなった女性設計士。
当時の警備員がさ、何度か深夜の記録映像に彼女を見たって言ってた」
さらに調べてみると、
その女性が最後に手がけていたのが、まさにあのエントランスホールだったという。
設計段階で予期せぬ工期変更が重なり、
連日徹夜続きの末に、疲労と不注意で足場から転落――
誰にも見守られず、照明の消えた夜のビルでひとり、
彼女は最期を迎えた。
以来、深夜2時を過ぎた頃になると、カメラに“誰かが歩く姿”が映るという噂が、警備員の間で囁かれていた。
その人物は、顔を見せない。
ただ、ゆっくりとホールを横切り、
そして、自動ドアの前で消える。
“誰かを待っている”ようにも、“出ていこうとしている”ようにも見えるという。
俺は、その日以来、
夜の映像を巻き戻すことをやめた。
見てしまったら、
次は自分が“記録される側”になる気がしたからだ。
きっと、あの時の彼女も、
画面の向こうから誰かに気づかれるのを待っていたのだろう。
でも、誰も気づかず――
だから今も、同じ時間、同じ場所に立ち続けている。
あなたが監視カメラの映像を見たとき、
もし“いないはずの誰か”がそこにいたら、
その人は、何年も前から、ずっとあなたを見ていたのかもしれない。
―――――――――――――――――――――――
あとがき
第40話『最後の警備記録、映っていた“いないはずの人物”』をお読みいただき、ありがとうございました。
記録というものは、残すためにあると同時に、
時として“忘れてはいけないこと”を突きつけてきます。
見てしまったこと、記録されていたこと。
それが過去の断片だと信じたいのは、私たち自身なのかもしれません。
次回は『第41話:誰も住んでいない空き家から届いた手紙』を予定しています。
―――――――――――――――――――――――
いいね・フォローのお願い
監視カメラは、すべてを見ているわけではありません。
でも、“見てはいけないもの”だけは、なぜか必ず映る。
そんな話が、まだまだ続きます。
よろしければ「いいね」と「フォロー」で、百の物語の最後までお付き合いください。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
最終死発電車
真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。
直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。
外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。
生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。
「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/1/2:『そうしき』の章を追加。2026/1/9の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/1:『いえい』の章を追加。2026/1/8の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる