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第41話:誰も住んでいない空き家から届いた手紙

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その手紙が届いたのは、梅雨が始まる少し前のことだった。

差出人の名前はなかった。
けれど、宛名は確かに、俺の名前と住所が丁寧に書かれていた。
消印は、**隣町の“雨間(あまま)”**という聞き覚えのない地名。

封筒を破って中を見ると、便箋が一枚、滑り落ちた。
その筆跡は震えるようにかすれ、ところどころ滲んでいた。
まるで水に濡れたような――あるいは、涙の跡のような。

たすけて
きづいてほしい
あなたしかいない

そんな短い言葉が、繰り返し書かれていた。

差出人の名も、日付もない。
不審に思いながらも、捨てる気になれず、机の引き出しにしまった。

数日後、仕事の関係で偶然、
その“雨間”という町の近くを車で通ることになった。

そして気になって、
ナビに入力して町を探した――

だが、地図にはその町が存在しなかった。

念のため、郵便局に聞いてみたところ、古い職員がこう言った。

「ああ……雨間ね。昔、そう呼ばれてた集落があったよ。
でももう、全部空き家になってるはず。土砂崩れで、かなり前に」

奇妙に思いながらも、実際にその場所まで行ってみた。

山を越え、森を抜けた先に、それはあった。

苔むした石垣と、ひび割れた道路。
いくつもの空き家が、風に軋む音を立てながら、雨を待っていた。

一軒、玄関に表札が残っている家を見つけた。

その名字は――俺の母方の旧姓と同じだった。

中に入ると、家具はすべてそのまま。
まるで、つい昨日まで誰かが暮らしていたかのように整っていた。

奥の部屋に、机と便箋があった。
まるで、俺が手にした手紙と同じものが――何十枚も――散らばっていた。

壁に貼られた写真。
その中の少女の顔を見て、背筋が凍った。

幼い頃の母に、そっくりだった。

俺が帰る直前、ふと、背中に視線を感じた。
振り返っても、誰もいない。

だが、帰宅後――机の引き出しにしまっていたあの手紙の裏に、
新しい文字が加わっていた。

やっと
きづいてくれたね

筆跡は、俺のものだった。

俺はその手紙を燃やすことも、捨てることもできず、今も手元に残している。

ときどき、裏面に新しい言葉が増えている気がする。

誰が書いたのかは、もうわからない。
けれど、それが今も“そこ”にいる者からの語りかけであることだけは、確信している。

そしてまた雨の季節がやってくる。
あの空き家も、誰かの帰りを待っているのだろう。

―――――――――――――――――――――――

あとがき
第41話『誰も住んでいない空き家から届いた手紙』をお読みいただき、ありがとうございました。

空き家とは、誰かが“暮らしていた記憶”の残骸です。
けれど、それがまだ“生きている”としたら――
きっとそこには、言葉にできなかった思いが、手紙という形で届くのかもしれません。

次回は『第42話:電話ボックスの奥に佇む“もう一人の自分”』を予定しています。

―――――――――――――――――――――――

いいね・フォローのお願い
手紙が届くということは、誰かが“あなたの居場所”を知っているということです。

それが、もうこの世にいない存在だったとしたら――
続きが気になる方は「いいね」と「フォロー」で応援していただければ幸いです。
物語は、まだ半ばにも至っていません。
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