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第42話:電話ボックスの奥に佇む“もう一人の自分”

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かつて、通学路の途中にひとつだけ、使われていない電話ボックスがあった。
木々に囲まれ、歩道の脇にひっそりと建っていて、
誰が入るわけでもなく、いつも静かにそこにあった。

薄汚れたガラス越しに中を覗くと、古びた黒電話がぽつんと置かれていた。

電源は通っていないはずだ。
通話線も既に撤去されていると、町内の工事業者の父が言っていた。

けれどある日、放課後にそこを通りかかったときだった。
電話が鳴った。

「リン……リン……」

乾いたベル音が、あたりに響いた。

周囲に人影はない。
風も吹いていない。
それなのに、確かに鳴っていた。

思わず近づき、扉に手をかけた。
だが、中を覗いた瞬間、血の気が引いた。

そこに、“俺”がいた。

制服姿の俺。
だが、こちらに背を向けて立ち、受話器を耳に当てている。

電話をしている。
でも口元は動いていない。
まるで、ただ“音”を聞いているだけのように。

そしてその“俺”が、ゆっくりと振り返った。

顔が……ない。

顔の位置だけが、まるで霞がかかったように曖昧で、
何も見えない――目も鼻も、口もない。

その瞬間、心臓が跳ね上がった。

気がつけば、走っていた。

帰り道を、何度も何度も振り返りながら。

家に帰っても、胸のざわつきは収まらず、
あの電話ボックスが“過去”に何かあったのではと、町の図書館で調べてみた。

そして見つけた。

20年以上前、その場所で一人の少年が交通事故に遭って亡くなっていた。

詳細は書かれていなかったが、
“事故直前、少年が電話ボックスに入っていた”という証言があった。

つまり――
あれは俺ではなく、“その少年”だったのかもしれない。

もしくは――
未来の俺だったのかもしれない。

あれから、電話ボックスの前を通るのを避けている。

だが、最近になって夢の中に、あの“顔のない俺”が出てくるようになった。

夢の中で、電話が鳴る。
俺は受話器を取る。

そして聞こえてくるのは――

「また、会えるよね?」

その声は――自分の声だった。

今夜もきっと、どこかの電話ボックスで、
俺が俺を待っている。

そして再び出会ったとき、
どちらが“本物”かを決めなければならないのかもしれない。

―――――――――――――――――――――――

あとがき
第42話『電話ボックスの奥に佇む“もう一人の自分”』をお読みいただき、ありがとうございました。

鏡のように、現実を模倣する何か。
自分自身を見つめ返す存在に、私たちは抗えない恐怖を覚えます。

そしてその存在が、自分よりも“自分らしい”とき、
いったい何を信じればいいのでしょう。

次回は『第43話:おかえりとだけ書かれた日記帳』を予定しています。

―――――――――――――――――――――――

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