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第43話:おかえりとだけ書かれた日記帳
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田舎の古民家に越してから、一ヶ月が経った。
築八十年。かつて曽祖母が住んでいたというその家は、
今では空き家になって久しかった。
俺はそこを仕事の気分転換にと、
しばらく住んでみることにした。
風通しの悪い屋根裏を掃除していた時だった。
梁の隙間に、古びた日記帳が挟まっているのを見つけた。
表紙は煤けていて、開くたびにほこりが舞った。
けれど、ページの中身は意外なほどはっきりと残っていた。
最初の一文には、こう書かれていた。
「今日も、あの人は帰ってこなかった」
誰かを待っているような文章が続いていた。
「風の音にまぎれて、あの人の足音が聞こえた気がした」
「お味噌汁を作ったけど、やっぱり冷めてしまった」
「明日こそ、帰ってくるよね?」
どのページにも、“その人”の名前は出てこない。
ただ、ひたすら“帰りを待つ”という文面が並んでいた。
そして、最終ページだけが新しかった。
明らかに紙質が違い、インクのにじみもない。
その一行にだけ、こう書かれていた。
「おかえり」
ぞっとして、日記を閉じた。
部屋に誰かがいる気がした。
振り返ると、障子の向こうに、人の影――
「誰だ!」
叫んで障子を開けると、誰もいない。
だが、畳の上に、濡れた足跡が残っていた。
それからというもの、毎晩のように耳元で声がする。
「……おかえり」
低く、微かに、確かに。
俺はこの家のどこかに、
“帰りを待ち続けた誰か”がまだいる気がしてならない。
思い出すのは、祖母の言葉だ。
「この家には、昔ね……戦争に行って帰ってこなかった人がいたのよ。
最後まで待ってたの。何十年も、ただずっと、ね」
声の主がその“待っていた人”なのか、
あるいは“待たれていた側”なのかは、分からない。
だが、確かに誰かが、
「おかえり」と言ってくれた。
それは、誰かにとっての願いの終わりであり、
始まりでもあるのかもしれない。
―――――――――――――――――――――――
あとがき
第43話『おかえりとだけ書かれた日記帳』をお読みいただき、ありがとうございました。
「帰りを待つ」というのは、人の営みの中でもとても強い想いです。
それが時を越えても消えないとしたら、
幽霊よりも、ずっと重たい記憶かもしれません。
次回は『第44話:落とし物を届けに来た“白い靴の子ども”』を予定しています。
―――――――――――――――――――――――
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百話の終わりまでぜひ一緒に歩んでください。
待っている声に、きっと、また出会えるはずです。
築八十年。かつて曽祖母が住んでいたというその家は、
今では空き家になって久しかった。
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表紙は煤けていて、開くたびにほこりが舞った。
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最初の一文には、こう書かれていた。
「今日も、あの人は帰ってこなかった」
誰かを待っているような文章が続いていた。
「風の音にまぎれて、あの人の足音が聞こえた気がした」
「お味噌汁を作ったけど、やっぱり冷めてしまった」
「明日こそ、帰ってくるよね?」
どのページにも、“その人”の名前は出てこない。
ただ、ひたすら“帰りを待つ”という文面が並んでいた。
そして、最終ページだけが新しかった。
明らかに紙質が違い、インクのにじみもない。
その一行にだけ、こう書かれていた。
「おかえり」
ぞっとして、日記を閉じた。
部屋に誰かがいる気がした。
振り返ると、障子の向こうに、人の影――
「誰だ!」
叫んで障子を開けると、誰もいない。
だが、畳の上に、濡れた足跡が残っていた。
それからというもの、毎晩のように耳元で声がする。
「……おかえり」
低く、微かに、確かに。
俺はこの家のどこかに、
“帰りを待ち続けた誰か”がまだいる気がしてならない。
思い出すのは、祖母の言葉だ。
「この家には、昔ね……戦争に行って帰ってこなかった人がいたのよ。
最後まで待ってたの。何十年も、ただずっと、ね」
声の主がその“待っていた人”なのか、
あるいは“待たれていた側”なのかは、分からない。
だが、確かに誰かが、
「おかえり」と言ってくれた。
それは、誰かにとっての願いの終わりであり、
始まりでもあるのかもしれない。
―――――――――――――――――――――――
あとがき
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「帰りを待つ」というのは、人の営みの中でもとても強い想いです。
それが時を越えても消えないとしたら、
幽霊よりも、ずっと重たい記憶かもしれません。
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