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第52話:閉じた教室の窓を叩く、昼にはいないはずの手
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都内の私立中学校。
放課後、理科準備室に隣接する旧・第三理科室は、使われなくなって久しかった。
その日は夏の補習授業。
講師として臨時で来ていた大学生の井上佳奈は、
放課後、忘れ物を取りに教室へ戻った。
校舎の四階。
廊下の端にある古い教室に入ると、まだ湿気を含んだ空気がこもっていた。
目的のノートを見つけて机を離れたそのとき――
**「コツ、コツン」**という音が、耳に届いた。
窓の方からだ。
夕陽を受けてオレンジ色に染まった窓。
校庭に面したそのガラスに、何かが触れたような音が続いている。
(……鳥?)
そう思い、近づいた。
窓の外には、誰もいない。
木の枝も、鳥も、風の影も、何も。
だが、音は止まなかった。
「コツ……コツン……コツ」
そして、窓ガラスの表面に――
指の跡が浮かび始めた。
白く曇るほどの、掌の跡。
まるで冷たい外気に触れたような、曇ったガラス面に――
指先で“何か”が書こうとしている。
佳奈は反射的に後ずさった。
(いたずら……? でも、四階の窓の外に人なんて……)
心拍が跳ねる。
と、その瞬間、窓が“ゴン”と大きく叩かれた。
衝撃でガラスが震えた。
何かが“強く”叩いたのだ。
まるで、「気づけ」とでも言わんばかりに。
佳奈は叫び声をこらえ、教室を飛び出した。
職員室で状況を話すと、
年配の教師が、静かにこう呟いた。
「……また、出たか」
「“また”?」
「あの教室な、昔――一人の生徒が転落して亡くなったんだ。
放課後、窓の掃除をしてる時に、誤って……な」
「それって、今の窓の……?」
「ああ、あそこさ」
教師は、静かにため息をついた。
「……今も時々、“叩く音”がするんだ。
まるで、自分が落ちたことを伝えようとしてるみたいにな」
翌日、佳奈は勇気を出して、もう一度あの教室に入ってみた。
そして見た。
窓ガラスの外側に、白い跡が残っていた。
それは、掌を広げ、五本の指を伸ばしたままの、
助けを求めるような手のひらの跡。
けれど――
外側には、手が届く足場など存在しない。
“昼にはいない”はずのその手は、
夕暮れになると、また“こちら”を叩いてくるのだという。
―――――――――――――――――――――――
あとがき
第52話『閉じた教室の窓を叩く、昼にはいないはずの手』をお読みいただき、ありがとうございました。
“そこにいるはずのない場所”から届く音。
それは、過去に置き去りにされた存在の――
最も切実なサインかもしれません。
次回は『第53話:エレベーターに映った、降りてこなかった同乗者』を予定しております。
―――――――――――――――――――――――
いいね・フォローのお願い
見ないふりをしてきた誰かの手。
叩かれても、届かなかった声。
もしこの物語が“窓を叩いた”ように感じたなら――
いいねとフォローで、彼らの存在をそっと確かめてください。
放課後、理科準備室に隣接する旧・第三理科室は、使われなくなって久しかった。
その日は夏の補習授業。
講師として臨時で来ていた大学生の井上佳奈は、
放課後、忘れ物を取りに教室へ戻った。
校舎の四階。
廊下の端にある古い教室に入ると、まだ湿気を含んだ空気がこもっていた。
目的のノートを見つけて机を離れたそのとき――
**「コツ、コツン」**という音が、耳に届いた。
窓の方からだ。
夕陽を受けてオレンジ色に染まった窓。
校庭に面したそのガラスに、何かが触れたような音が続いている。
(……鳥?)
そう思い、近づいた。
窓の外には、誰もいない。
木の枝も、鳥も、風の影も、何も。
だが、音は止まなかった。
「コツ……コツン……コツ」
そして、窓ガラスの表面に――
指の跡が浮かび始めた。
白く曇るほどの、掌の跡。
まるで冷たい外気に触れたような、曇ったガラス面に――
指先で“何か”が書こうとしている。
佳奈は反射的に後ずさった。
(いたずら……? でも、四階の窓の外に人なんて……)
心拍が跳ねる。
と、その瞬間、窓が“ゴン”と大きく叩かれた。
衝撃でガラスが震えた。
何かが“強く”叩いたのだ。
まるで、「気づけ」とでも言わんばかりに。
佳奈は叫び声をこらえ、教室を飛び出した。
職員室で状況を話すと、
年配の教師が、静かにこう呟いた。
「……また、出たか」
「“また”?」
「あの教室な、昔――一人の生徒が転落して亡くなったんだ。
放課後、窓の掃除をしてる時に、誤って……な」
「それって、今の窓の……?」
「ああ、あそこさ」
教師は、静かにため息をついた。
「……今も時々、“叩く音”がするんだ。
まるで、自分が落ちたことを伝えようとしてるみたいにな」
翌日、佳奈は勇気を出して、もう一度あの教室に入ってみた。
そして見た。
窓ガラスの外側に、白い跡が残っていた。
それは、掌を広げ、五本の指を伸ばしたままの、
助けを求めるような手のひらの跡。
けれど――
外側には、手が届く足場など存在しない。
“昼にはいない”はずのその手は、
夕暮れになると、また“こちら”を叩いてくるのだという。
―――――――――――――――――――――――
あとがき
第52話『閉じた教室の窓を叩く、昼にはいないはずの手』をお読みいただき、ありがとうございました。
“そこにいるはずのない場所”から届く音。
それは、過去に置き去りにされた存在の――
最も切実なサインかもしれません。
次回は『第53話:エレベーターに映った、降りてこなかった同乗者』を予定しております。
―――――――――――――――――――――――
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叩かれても、届かなかった声。
もしこの物語が“窓を叩いた”ように感じたなら――
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