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第54話:三番ホームのベンチに、絶対に座ってはいけない理由

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その駅には、ひとつだけ「座ってはいけない」と噂されるベンチがある。

都内郊外の某私鉄駅、終電近くの三番ホーム。
外回り線の隅に、少しだけ古びた木製のベンチが置かれていた。
今ではホームの他の場所には金属製の新しいベンチが並んでおり、
その木のベンチだけが、場違いなようにぽつんと残されていた。

高校生の宮原恵理は、塾の帰りにそのベンチの存在を知った。

「三番ホームのあのベンチ、夜は絶対に座るなよ。連れてかれるぞ」

友人の噂話だった。

くだらない、と思いながらも、どこか記憶に残った。

その日も遅くなり、駅に着いたのは午後11時過ぎ。
下り電車の終電を待つホームは、人もまばらだった。

ふと、件のベンチが目に入った。

誰も座っていない。
静かで、疲れた足にはありがたいようにも思えた。

けれど恵理は、その前で立ち止まり、
なぜか足が動かなくなった。

ベンチの上に――白い線香のような灰が散っていたのだ。

(誰か、ここで何か……)

目を凝らすと、ベンチの背もたれには、薄く名前が刻まれていた。
「たなか あきら 平成五年三月 ここで」
文字は削られたように浅く、読みづらかった。

座るべきではない。
そう直感した恵理は、少し離れて立ち尽くした。

そこへ、酔ったサラリーマン風の男が、ふらりとやってきた。
そして、何も気にせず、その木のベンチに腰を下ろした。

――次の瞬間、恵理は凍りついた。

男の背後に、もう一人、座っていた。

いつの間に。
どこから。

小柄な人影が、男の肩越しに顔を覗かせ、
恵理と、目が合った。

髪が濡れて、顔の半分がただれているような女。
それが、にい、と笑った。

電車が来た。
轟音とともに入ってきた下り最終列車に、
男はふらふらと立ち上がり、ホームの端へ向かう。

「危ない!」と恵理が叫ぶより早く、
男は自ら線路に落ちるように消えた。

非常停止ボタンが押され、駅員の怒声が飛び交うなか、
恵理はもう一度、ベンチを見た。

もう、誰も座っていなかった。

けれど、ベンチの上には、再び白い灰が積もっていた。

それ以来、彼女は夜遅くの三番ホームを使うことをやめた。
そしてこう語る。

「“あれ”は座った人に乗るんだよ。
次の誰かが来るまで、ずっと、背中に」

あのベンチは、今も残っている。
誰にも知られずに、静かに。

―――――――――――――――――――――――

あとがき
第54話『三番ホームのベンチに、絶対に座ってはいけない理由』をお読みいただきありがとうございました。

疲れた帰り道、ふと腰を下ろしたくなる夜。
そこに「理由」がある場所には、気配が宿ります。

“座ってはいけない”とは、“乗せてはいけない”ことかもしれません。

次回は『第55話:夢で見た部屋が、今日の物件内見先だった』を予定しています。

―――――――――――――――――――――――

いいね・フォローのお願い
ベンチに残る誰かの名残り。
それに気づいた瞬間から、物語は背中に乗ってきます。

この話が、あなたの背筋をふと冷やしたなら――
いいねとフォローで、その“重さ”をそっと引き受けてください。
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