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第55話:夢で見た部屋が、今日の物件内見先だった
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「なんか見覚えある気がするんだよね、この間取り……」
春から社会人になる篠原ゆうかは、
ひとり暮らしの部屋探しに奔走していた。
大学の卒業旅行も早々に切り上げ、今日は内見四件目。
その日の内見先は、東京郊外にある古いマンションの一室だった。
エレベーターなし、築三十年。
地図上では少し不便そうだったが、家賃が破格だった。
だが、案内の途中――部屋の前で、ゆうかの足が止まる。
(このドア、見たことある……)
冷たい汗が額に浮かぶ。
目の前の茶色い木製ドア。
銀色の丸いノブ。斜めに貼られた管理番号のシール。
全部――夢で見た光景と、まったく同じだった。
数日前。
ゆうかは夢の中で、この部屋に入っていた。
部屋の中は、殺風景なワンルーム。
窓は狭く、風が通らず、妙に湿っていた。
そして――夢の中の彼女は、
ベッドの下に何かを見つけたのだ。
人の目だった。
白く濁った眼球が、ベッドの隙間から、じっとこちらを見上げていた。
そこで目が覚めた。
(あれは夢だ。偶然に決まってる)
そう言い聞かせながらも、手は震えていた。
仲介業者はすでにドアを開けて待っている。
ゆうかは覚悟を決め、靴を脱いで中に入った。
畳の部屋。狭いユニットバス。
小さな流し台。すべて夢と同じ。
窓を開けても風は通らず、空気が重い。
「ベッドがあったら、あそこかなー」
業者が何気なく指差した場所は、夢の中で目があった位置。
「収納も確認しておきましょうか」と、彼がクローゼットを開けた瞬間――
ガタンッと、ベッド下に似た床下収納の蓋が音を立てて、勝手に開いた。
「……? 今、開きました?」
業者が首をかしげる。
ゆうかは近づけなかった。
だが、何かが、そこからこちらを見ている気配だけは、確かにあった。
夢で見た目。
視線。
音。
すべては、この部屋が彼女を“呼んでいた”証拠だった。
結局、ゆうかは何も言わず、そのまま退出した。
物件は“キャンセル”とだけ伝えた。
それから何度も不動産サイトをチェックしたが、
あの物件は一度も再掲載されなかった。
まるで――最初から、
“そこ”は彼女にしか見えていなかったかのように。
そして、あの夢は今もたまに見る。
部屋の中で誰かが寝ていて、ベッドの下から、目だけが覗いている。
あれは誰かが夢を通じて呼んでいたのか。
それとも――
ゆうか自身が、あの部屋の過去をなぞってしまったのか。
誰にも、わからない。
―――――――――――――――――――――――
あとがき
第55話『夢で見た部屋が、今日の物件内見先だった』をお読みいただきありがとうございました。
“既視感”は、脳の誤作動とも言われますが、
本当にそうでしょうか。
私たちが“呼ばれるべき場所”に、何度も立ってしまうのだとしたら。
次回は『第56話:隣の部屋からの声が、契約者名簿にない名前を呼ぶ』を予定しております。
―――――――――――――――――――――――
いいね・フォローのお願い
見覚えのある風景。
夢で歩いた廊下。
ベッドの下の、誰かのまなざし。
もし、この物語があなたの記憶に“何か”を呼び起こしたなら――
いいねとフォローで、次の訪問先の扉を開いてください。
春から社会人になる篠原ゆうかは、
ひとり暮らしの部屋探しに奔走していた。
大学の卒業旅行も早々に切り上げ、今日は内見四件目。
その日の内見先は、東京郊外にある古いマンションの一室だった。
エレベーターなし、築三十年。
地図上では少し不便そうだったが、家賃が破格だった。
だが、案内の途中――部屋の前で、ゆうかの足が止まる。
(このドア、見たことある……)
冷たい汗が額に浮かぶ。
目の前の茶色い木製ドア。
銀色の丸いノブ。斜めに貼られた管理番号のシール。
全部――夢で見た光景と、まったく同じだった。
数日前。
ゆうかは夢の中で、この部屋に入っていた。
部屋の中は、殺風景なワンルーム。
窓は狭く、風が通らず、妙に湿っていた。
そして――夢の中の彼女は、
ベッドの下に何かを見つけたのだ。
人の目だった。
白く濁った眼球が、ベッドの隙間から、じっとこちらを見上げていた。
そこで目が覚めた。
(あれは夢だ。偶然に決まってる)
そう言い聞かせながらも、手は震えていた。
仲介業者はすでにドアを開けて待っている。
ゆうかは覚悟を決め、靴を脱いで中に入った。
畳の部屋。狭いユニットバス。
小さな流し台。すべて夢と同じ。
窓を開けても風は通らず、空気が重い。
「ベッドがあったら、あそこかなー」
業者が何気なく指差した場所は、夢の中で目があった位置。
「収納も確認しておきましょうか」と、彼がクローゼットを開けた瞬間――
ガタンッと、ベッド下に似た床下収納の蓋が音を立てて、勝手に開いた。
「……? 今、開きました?」
業者が首をかしげる。
ゆうかは近づけなかった。
だが、何かが、そこからこちらを見ている気配だけは、確かにあった。
夢で見た目。
視線。
音。
すべては、この部屋が彼女を“呼んでいた”証拠だった。
結局、ゆうかは何も言わず、そのまま退出した。
物件は“キャンセル”とだけ伝えた。
それから何度も不動産サイトをチェックしたが、
あの物件は一度も再掲載されなかった。
まるで――最初から、
“そこ”は彼女にしか見えていなかったかのように。
そして、あの夢は今もたまに見る。
部屋の中で誰かが寝ていて、ベッドの下から、目だけが覗いている。
あれは誰かが夢を通じて呼んでいたのか。
それとも――
ゆうか自身が、あの部屋の過去をなぞってしまったのか。
誰にも、わからない。
―――――――――――――――――――――――
あとがき
第55話『夢で見た部屋が、今日の物件内見先だった』をお読みいただきありがとうございました。
“既視感”は、脳の誤作動とも言われますが、
本当にそうでしょうか。
私たちが“呼ばれるべき場所”に、何度も立ってしまうのだとしたら。
次回は『第56話:隣の部屋からの声が、契約者名簿にない名前を呼ぶ』を予定しております。
―――――――――――――――――――――――
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見覚えのある風景。
夢で歩いた廊下。
ベッドの下の、誰かのまなざし。
もし、この物語があなたの記憶に“何か”を呼び起こしたなら――
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