百の話を語り終えたなら

コテット

文字の大きさ
58 / 102

第57話:黒板に勝手に書かれた出席番号、それは既に死んだ生徒の席だった

しおりを挟む
雨の月曜日。
教室に一番乗りしたのは、いつも通り真面目な佐伯千夏だった。

黒板消しを片づけ、朝の準備を整えていたそのとき、ふと違和感に気づいた。
黒板の左隅に――出席番号“32”とだけ、白チョークで書かれていた。

(あれ……? うちのクラスって、31人だったはず……)

そう、3年2組の生徒は全員で31人。
クラス名簿にも、出席簿にも、“32番”は存在しない。

イタズラか、と思った。
けれど、チョークの文字は湿った板書ににじんでいなかった。

つまり、今朝書かれたものではない。

まるで、誰かが昨夜のうちに、ひっそりと書き残していったかのように。
そして、その下にはうっすらと**“斉藤”という苗字**が擦れたように見えた。

(斉藤……誰だっけ?)

名前に記憶はない。けれど、聞き覚えがあるような錯覚。

次々と登校してくるクラスメイトたちも、最初は笑っていた。

「また誰か変なイタズラしたなー」
「番号ミスってるし、ビビらせようとしてんじゃね?」

担任の中山先生が入ってくるまで、騒ぎは続いていた。

しかし、先生は黒板を見るなり、ピタリと動きを止めた。

「……誰がこれを書いた」

全員が黙る。

「……これは、絶対に消すな」

一瞬、教室にざわりと冷たい空気が流れた。

――放課後。
こっそり職員室で、千夏は名簿をのぞき見た。

そこには確かに、出席番号32番・斉藤真由という名前が、過去の学籍記録にだけ存在していた。

だが彼女は、3年前の修学旅行中、事故で死亡していた。

同じ教室で、同じ席で。

それから、毎年のこの日――
“斉藤真由”の出席番号が黒板に現れるようになったという。

その席は、今のところ、誰も座っていない。
正確には、座れない。

机の椅子を引こうとすると、なぜか動かないのだ。
誰も触っていないのに、誰かが腰かけているように。

黒板の出席番号は、その日が終わるまで消せない。
無理に消すと、その手をひねるような痛みが走るという。

それを体験した生徒は、次の日から姿を見せなくなった。

千夏は、翌朝もう一度黒板を見た。

そこにはもう“32”の文字はなかった。
ただ、出席番号“31”の下に、うっすらと白く“つづけて”と書かれていた。

その“つづけて”が何を意味するのか、彼女にはわからない。

ただ一つ言えるのは――今年も“斉藤真由”は、出席していた。

―――――――――――――――――――――――

あとがき
第57話『黒板に勝手に書かれた出席番号、それは既に死んだ生徒の席だった』をお読みいただきありがとうございました。

教室という日常の中で、黒板は言葉を刻む場所。
でも、そこに現れる“誰かの名”は、もういないはずの存在かもしれません。

“出席している”ということが、どれほど重く、恐ろしい意味を持つのか。
静かに、考えてみてください。

次回は『第58話:誰もいない図書室で、延滞したはずの貸出カードが戻っていた』を予定しております。

―――――――――――――――――――――――

いいね・フォローのお願い
その番号が、空白であることに、理由はある。
その机が、動かない理由もまた――

もし、あなたの記憶にも“誰かの席”が空いていたなら、
いいねとフォローで、そっとその存在に気づいてあげてください。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/1/2:『そうしき』の章を追加。2026/1/9の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/1:『いえい』の章を追加。2026/1/8の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...