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第60話:校庭の花壇に置かれた手紙、それは毎年“同じ日付”に増えていく

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その学校では、3月1日になると必ず一通の封筒が花壇に置かれていた。
赤い封蝋で閉じられた、古風な便箋の手紙。
差出人の名はなく、宛名にはただ一言――

「春になったら、また来ます」

最初にそれを見つけたのは、旧園芸部の教師だった。
彼は最初、それを誰かの忘れ物か悪戯と思った。
けれど、翌年も、また翌年も、同じ封筒がまったく同じ場所に、同じ姿で置かれていた。

内容は年ごとに違った。
けれど、そのどれにも、ある種の共通点があった。

それは、書き手が決して“自分の名前”を名乗らないこと。
そして、**「誰かを待っている」**という文面。

「今日も、あの子は来ませんでした。けれど、私はまだここにいます」

「土の匂いが、あの頃と同じです。花は咲くのに、私は咲けません」

「あなたが読んでくれると、信じています」

教師は、職員室にそれらの手紙をファイルにまとめ、鍵をかけて保管した。
だが、いつからか噂になり――
「読まれなかった手紙は、また地面に戻る」
という奇妙な言い伝えが、生徒の間に広まっていった。

ある年。
好奇心からか、二年の女生徒・沙月が、封を開けて中身を読んだ。

その夜、彼女の夢に、誰かが現れた。

制服のまま、顔がぼやけたままの人影。
言葉を発さないその“誰か”は、花壇の前でずっとこちらを見ていた。

目が覚めたとき、彼女の枕元には、土のついた手紙が一通、置かれていた。
それは、前日に彼女が開封したはずのもの。

ただし、内容が変わっていた。

「読んでくれてありがとう。でも、まだ“あの子”ではないみたい」

翌年、沙月は卒業式のあと、ふらりと校庭の花壇に立ち寄った。
そこには、また同じ封筒が置かれていた。

彼女はそれを手に取って、今度は中を見なかった。
ただそっと、元の場所に戻した。

その日以来、彼女の夢に“誰か”が現れることは、もうなかった。

けれど今も、3月1日になると、封筒は必ず花壇に現れる。

そして毎年、誰かがそれを手に取り――
“自分ではなかった”と気づいて、また置いていく。

――花が咲いても、届かない想いがある。
それでも、土に帰らず、言葉として残り続けるのは、
“待つ者”と“気づかぬ者”の、ささやかな約束なのかもしれない。

―――――――――――――――――――――――

あとがき
第60話『校庭の花壇に置かれた手紙、それは毎年“同じ日付”に増えていく』をお読みいただき、ありがとうございました。

待つということ、そして伝えるということ。
それは必ずしも、届くとは限らない。

けれど、“そこにある”ということだけで、
何かが救われる――そんな気がする話でした。

次回は『第61話:開かずのロッカー、その中から毎朝“使用済みのハンカチ”が見つかる』を予定しております。

―――――――――――――――――――――――

いいね・フォローのお願い
この話が心に残った方へ。
もし誰かが、あなた宛てに手紙を出していたとしたら。
まだ読まれていない封筒が、あなたの足元にそっと置かれているかもしれません。

そう思えた方は、ぜひいいねとフォローで、
“百の手紙”が、誰かに届くその日まで、見届けてください。
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