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第62話:図書室の隅、返却されたはずのない“記録にない本”

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放課後の静けさが図書室を包む午後五時過ぎ。
当番の生徒、三年の神田翔太は返却棚の整理をしていた。

そのとき、ふと目に止まったのは――
棚の隅に、不自然に立てかけられた一冊の古びたハードカバー。

背表紙には、銀色の箔押しでこう記されていた。

『二人だけの読書録』

聞いたこともないタイトルだった。

不審に思った翔太は、その本の背面にあるバーコードをスキャンしようとしたが、反応がない。
図書館の蔵書システムにも、登録されていない。

「こんな本、あったか……?」

恐る恐る開くと、最初のページには手書きの文字があった。

「2021年4月2日 今日から、君とこの本を読む」

続いてページをめくると、そこにはまるで交換日記のように二人の筆跡が交互に並んでいた。

「図書室で君と話すのが、最近の楽しみだよ」
「あなたの感想、ちょっと難しいけど、でも好き」
「この本が終わる頃、私たちも卒業しているのかな?」

日付はどれも、今から二年前。
だがその最後に、異様な一文があった。

「4月15日 今日、君がいなくなった」

そこから先は、もう一人の文字しかなかった。

「君の席が空いてるの、慣れないな」
「話したいこと、まだあったのに」
「次の本も、一緒に読むはずだったのに」
「戻ってこないなら、私が君を読むよ」

最後のページには、破れかけたインクでこう記されていた。

「私がいなくなったら、この本は返してね。そしたら、また“誰か”と始まるから」

翔太はふと、辺りを見渡した。
その瞬間、図書室のガラス戸に、制服姿の誰かがすっと立ち去る影が映った。

だが扉は閉ざされ、足音もなかった。

翌日、翔太がその本を職員室に持ち込むと、図書館司書が首を傾げた。

「……それ、去年の卒業生が探してた本じゃないかしら」

翔太は尋ねた。「誰が?」

司書は言った。

「事故で亡くなった女子生徒よ。四月のはじめに、図書室に来たまま……もう戻らなかった」

その名は――
翔太の手帳に、何度も何度も書いては消した、あるひとりの女子の名だった。

本はその後、図書室の返却棚から忽然と姿を消した。

けれど時折、誰も触れていないはずの机の上に、しおりだけが置かれているという噂は絶えなかった。

そしてそのしおりには、
誰かの文字でこう書かれているという。

「また一緒に、読んでくれる?」

―――――――――――――――――――――――

あとがき
第62話『図書室の隅、返却されたはずのない“記録にない本”』をお読みいただき、ありがとうございました。

言葉にできなかった想いは、時にページの隙間に宿ります。
そしてその想いは、読む誰かにそっと触れることで、また一歩、次へと進んでいくのかもしれません。

次回は『第63話:昇降口の鏡、その向こうにだけ“季節が違う”』を予定しております。

―――――――――――――――――――――――

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