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第67話:音楽室のピアノが、誰もいないのに“譜めくり”をする
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放課後の音楽室。窓を開け放つと、風が音符のように抜けていく。
ピアノの鍵盤は陽に照らされて白く光り、椅子がきちんと整えられていた。
三年の中田陽菜は、卒業前に録音する合唱伴奏の練習のため、ひとり残っていた。
演奏するのは、別れの曲として定番の《旅立ちの日に》。
彼女は静かに椅子に座り、指を置く。
──ド、レ、ミ、ファ……。
曲は順調に進んでいく。
だが、ページの終わりに差し掛かったとき、不意に誰も触れていないはずの楽譜が、ふわりと“めくれた”。
「……風?」
窓を見たが、風は止んでいた。
しかも、めくれたページは“先”ではなく、“一枚戻って”いた。
陽菜は首を傾げながらも、再度弾き直す。
今度はもう少し進んだあたりで、再び――譜面が、はらりとめくれた。今度は、めくる方向が合っていた。
その動きは、まるで隣に座っている誰かが、自然にページを送ってくれているようななめらかさだった。
ピアノの音に集中している間、陽菜の横に誰かが立っているような気配を、何度も感じた。
不安になり、手を止めて室内を見渡す。誰もいない。
しかし、譜面台の横に、白い指の跡がついていた。
薄く粉のような汚れの上に、五本指が確かに“添えられた”形で残っていたのだ。
その夜、音楽室に残っていたICレコーダーの録音には、陽菜の演奏に混じって、**微かに「ハミングのような声」**が入っていた。
合唱の旋律とは違う、まるで“伴奏”に寄り添うような小さな声だった。
翌日、音楽教師がふと呟いた。
「そういえば……数年前にもいたのよね、伴奏が大好きだった子。
風邪で卒業式に出られなかったけど、最後までピアノを弾いてたって。
あの時も言ってたわ、“誰かが譜めくってくれた”って」
それが、この学校で最初に“譜めくり”を感じた生徒だったのかもしれない。
今でも、音楽室で真剣に弾く生徒がいると――
そっと、譜面が自然にめくられるという。
まるで、どこかで演奏の続きを願っていた誰かが、今も隣に座っているように。
―――――――――――――――――――――――
あとがき
第67話『音楽室のピアノが、誰もいないのに“譜めくり”をする』をお読みいただき、ありがとうございました。
音楽は、時として時空を超え、気持ちと気配をつなぐものです。
誰かの想いが、旋律の傍らにそっと残り続けることもあるのかもしれません。
次回は『第68話:鏡の中に“こっちを向かない自分”が映っている』を予定しております。
―――――――――――――――――――――――
いいね・フォローのお願い
静かな教室で、ひとりで弾いているつもりでも――
ふとした瞬間、隣に誰かがいた記憶が、あなたの演奏に寄り添ってくるかもしれません。
物語の続きが気になる方は、ぜひいいね・フォローをお願いいたします。
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三年の中田陽菜は、卒業前に録音する合唱伴奏の練習のため、ひとり残っていた。
演奏するのは、別れの曲として定番の《旅立ちの日に》。
彼女は静かに椅子に座り、指を置く。
──ド、レ、ミ、ファ……。
曲は順調に進んでいく。
だが、ページの終わりに差し掛かったとき、不意に誰も触れていないはずの楽譜が、ふわりと“めくれた”。
「……風?」
窓を見たが、風は止んでいた。
しかも、めくれたページは“先”ではなく、“一枚戻って”いた。
陽菜は首を傾げながらも、再度弾き直す。
今度はもう少し進んだあたりで、再び――譜面が、はらりとめくれた。今度は、めくる方向が合っていた。
その動きは、まるで隣に座っている誰かが、自然にページを送ってくれているようななめらかさだった。
ピアノの音に集中している間、陽菜の横に誰かが立っているような気配を、何度も感じた。
不安になり、手を止めて室内を見渡す。誰もいない。
しかし、譜面台の横に、白い指の跡がついていた。
薄く粉のような汚れの上に、五本指が確かに“添えられた”形で残っていたのだ。
その夜、音楽室に残っていたICレコーダーの録音には、陽菜の演奏に混じって、**微かに「ハミングのような声」**が入っていた。
合唱の旋律とは違う、まるで“伴奏”に寄り添うような小さな声だった。
翌日、音楽教師がふと呟いた。
「そういえば……数年前にもいたのよね、伴奏が大好きだった子。
風邪で卒業式に出られなかったけど、最後までピアノを弾いてたって。
あの時も言ってたわ、“誰かが譜めくってくれた”って」
それが、この学校で最初に“譜めくり”を感じた生徒だったのかもしれない。
今でも、音楽室で真剣に弾く生徒がいると――
そっと、譜面が自然にめくられるという。
まるで、どこかで演奏の続きを願っていた誰かが、今も隣に座っているように。
―――――――――――――――――――――――
あとがき
第67話『音楽室のピアノが、誰もいないのに“譜めくり”をする』をお読みいただき、ありがとうございました。
音楽は、時として時空を超え、気持ちと気配をつなぐものです。
誰かの想いが、旋律の傍らにそっと残り続けることもあるのかもしれません。
次回は『第68話:鏡の中に“こっちを向かない自分”が映っている』を予定しております。
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