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第70話:無音の放送室から響く“校歌のない旋律”

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それは、誰も気づかないまま流れていた音だった。
五限が終わり、廊下がざわつくなかで、ふと耳を澄ますと――微かに、旋律が聴こえる。

だが、その音楽は“校歌”でも“チャイム”でもなかった。

それは、“聴いたことがないのに、懐かしい”旋律。

三年生の佐山裕介は、放送委員だった。
校内放送に使う音源を管理し、毎朝のチャイムや校内連絡を点検するのが日課だった。

ある日、放課後の放送室で点検中、スピーカーから小さな音漏れが聴こえてきた。

「……誰か、再生してる?」

モニタを確認すると、再生機材はすべて停止中。
だが、確かに“流れている”。
しかもそれは、カセットテープのような、ざらついたアナログ音。

音源の在処を探して、スピーカーの裏へまわると、一つだけラベルのない古いテープが機材の隙間に挟まっていた。

興味本位で再生すると、無音。

だが、次の瞬間、ヘッドホンの奥から――「歌声」が、確かに聴こえた。

言葉ではない。言語にならない、“校歌に似た”ようで、“どこにも存在しない”旋律。

その旋律は、ゆっくりと、苦しげに揺れながら続いた。
そして、最後に、はっきりと“誰かの囁き”が入った。

「忘れないで。あの時、歌えなかった人がいたことを。」

裕介はその夜、学校の歴史を調べ始めた。

旧校舎、放送室の火災、そして消えた卒業式。
かつて火事により中止となった年があり、その年の卒業生は、誰一人、校歌を歌えなかったという記録。

さらに、その中に一人、音楽に命を懸けていた女生徒の名があった。
彼女は最後の試験曲として、“自作の旋律”を残していたという。

それが、“校歌ではない旋律”――。

現在の放送室の備品には、カセットの使用記録はない。
だが、深夜の校内巡回で、放送室から音が漏れているのを聞いた警備員は複数いる。

その音は、決まって春の訪れと共に再び現れる。

卒業式が近づく頃――
誰かが、歌えなかったあの旋律を、繰り返し、繰り返し流している。

あの日、誰にも聴かれなかった旋律。
あの日、誰にも知られなかった歌声。

それが今も、誰かの記憶の中で、こだましているのだ。

―――――――――――――――――――――――

あとがき
第70話『無音の放送室から響く“校歌のない旋律”』をお読みいただき、ありがとうございました。

伝えたかった想い、届かなかった音、消えてしまった記録。
けれど、旋律はどこかに残り、時折、誰かの耳元で再び鳴り始めるのかもしれません。

次回は『第71話:旧体育館の壇上に現れる“逆さの指導者”』を予定しております。

―――――――――――――――――――――――

いいね・フォローのお願い
もしも耳にした旋律が、どこにも記録されていなかったとしたら――
それは、あなたにだけ届けられた“忘れられた音”かもしれません。

この物語を楽しんでいただけましたら、ぜひいいねとフォローをお願いいたします。
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