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第71話:旧体育館の壇上に現れる“逆さの指導者”

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その学校には、かつて体育指導の鬼と呼ばれた教師がいたという。
名は久坂健吾。戦後間もない頃の話で、厳しさを通り越した“狂気”のような訓練で知られていた。

毎朝の号令、行進、腕立て伏せ、そして土下座での謝罪。
叩くのは当たり前。叫ぶのも日常。
彼は、生徒の誰よりも大声で、早く走り、最後まで目を見開いていた。

そんな久坂が、突然、姿を消したのは、ある年の秋。

当時の旧体育館での全体集会の日、壇上に立ったまま、声を張り上げた彼は――そのまま崩れるようにして、倒れた。

心筋梗塞と記録にはある。
だが、遺体は一向に見つからなかった。
壇上で倒れたはずの彼の姿は、救護班が駆けつけた時には**“忽然と消えていた”**。

以来、旧体育館は「立入禁止区域」とされ、新校舎の横に新しい施設が建てられた。

けれど、噂は残った。

夜の旧体育館に入ると、“逆さまに吊られた久坂先生”が、壇上に現れる。

そう言ったのは、肝試しに入った三人組のひとり。
彼女はその日を境に、声が出なくなった。

中学三年の夏、佐原という生徒が、写真部の課題で旧体育館にこっそり入り、天井の梁を撮影した。
帰宅後、そのデータを確認すると、梁から逆さまに吊るされた人影が、ピントの合った状態で映っていた。

しかもその影は、こちらを“指差して”いた。

翌朝、佐原は校門前で倒れているところを発見された。
意識はあったが、彼が繰り返した言葉はたったひとつ。

「……まだ、逆さまなんだ。全部、ひっくり返ってるんだよ……」

校内記録には、旧体育館に関する怪談は一切残されていない。
だが、掃除当番の中には、あの建物に近づくと、立ち眩みと共に**“逆立ちしているような錯覚”**に襲われると訴える者もいた。

――誰かが、視界をひっくり返している。
――誰かが、正しさと間違いを逆転させている。

かつて“指導”と呼ばれた狂気は、いまや逆さまにぶら下がったまま、正しさを見張っている。

そして夜ごと、旧壇上から、地を這うような声が響くという。

「姿勢を正せ。さもなくば、下から引きずり落としてやる。」

―――――――――――――――――――――――

あとがき
第71話『旧体育館の壇上に現れる“逆さの指導者”』をお読みいただき、ありがとうございました。

誰かが正しいと叫ぶ時、それが本当に正しいのか――
私たちはいつの間にか、その“視点”すら奪われているのかもしれません。

次回は『第72話:呼びかけに応える、屋上の“手だけの生徒”』を予定しております。

―――――――――――――――――――――――

いいね・フォローのお願い
正しい姿勢、正しい言葉、正しい心。
すべてを“誰かの視点”に預けてしまったとき――本当の恐怖が始まるのかもしれません。

気に入っていただけましたら、いいねとフォローをぜひお願いいたします。
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