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第72話:呼びかけに応える、屋上の“手だけの生徒”
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午後四時二十七分。
その時間、旧校舎の屋上に向かって名前を呼ぶと――
手だけが、柵の向こうからひょいと現れる。
五本の指。制服の袖。だが、それ以上は何も見えない。
「屋上の幽霊」なんてありがちな怪談と思われがちだが、この話には妙な“規則性”があった。
・呼びかける名前がフルネームであること
・その生徒が実在し、しかも“その日欠席している”こと
・呼んだ側が、その生徒と普段から会話を交わしていること
これら三つの条件が揃ったときだけ、“手だけの生徒”は応じるのだという。
三年生の水嶋杏子は、ふざけ半分で屋上の柵に向かって言った。
「ねえ、神田悠斗。今日も来てないけど、元気?」
神田は確かにその日、風邪で休んでいた。
仲はそれほど深くないが、廊下で挨拶する程度の関係。
その声に応じるように、柵の向こう――屋上の端に、ひとつの手が現れた。
すっと伸びた中指に、少し爪を噛んだ痕跡。
確かに神田本人の癖だった。
驚いている間に、その手は二度、柵を“叩くように”軽く叩いた。
「……何か、言いたかったの?」
そう思った杏子が近づいたとき、
手は再び柵の向こうへと沈んで消えた。
その夜、神田からメッセージが届いた。
それは、杏子が呼びかけたのと同時刻に送信された“下書き保存”状態のままのメッセージだった。
「杏子、ごめん、話があるんだけど、」
文面は途中で途切れていた。
翌日、神田は登校した。
だが、杏子を見ても何も言わず、ただ遠くを見るような目つきだった。
「……夢で見た。屋上に手があって、誰かが俺を呼んでて……」
「ねえ、そのとき、何を伝えたかったの?」
「わからない。ただ……柵を叩いて、“そっちはダメ”って言ってた気がする。」
屋上の“手だけの生徒”は、いつも何かを伝えようとしている。
それが救いの言葉なのか、警告なのか――
それは、呼んだ者にしかわからない。
ただひとつ確かなのは――
その手は、必ず“生きている誰か”のものだということ。
だがその時、その誰かは――決して、そこにいないのだ。
―――――――――――――――――――――――
あとがき
第72話『呼びかけに応える、屋上の“手だけの生徒”』をお読みいただき、ありがとうございました。
声に応えるものがあるとしたら、それは本当に“人”なのでしょうか。
あるいは、呼ばれた“記憶”だけが、形をなしてしまったのかもしれません。
次回は『第73話:音楽室のカーテン裏に立つ“指揮者”』を予定しております。
―――――――――――――――――――――――
いいね・フォローのお願い
声をかけたときに応える何かがいる世界。
それが優しさでなくても、忘れずにいてくれるなら――それは恐ろしくも、どこか切ないことです。
気に入っていただけましたら、いいねとフォローをぜひお願いいたします。
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手だけが、柵の向こうからひょいと現れる。
五本の指。制服の袖。だが、それ以上は何も見えない。
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・呼びかける名前がフルネームであること
・その生徒が実在し、しかも“その日欠席している”こと
・呼んだ側が、その生徒と普段から会話を交わしていること
これら三つの条件が揃ったときだけ、“手だけの生徒”は応じるのだという。
三年生の水嶋杏子は、ふざけ半分で屋上の柵に向かって言った。
「ねえ、神田悠斗。今日も来てないけど、元気?」
神田は確かにその日、風邪で休んでいた。
仲はそれほど深くないが、廊下で挨拶する程度の関係。
その声に応じるように、柵の向こう――屋上の端に、ひとつの手が現れた。
すっと伸びた中指に、少し爪を噛んだ痕跡。
確かに神田本人の癖だった。
驚いている間に、その手は二度、柵を“叩くように”軽く叩いた。
「……何か、言いたかったの?」
そう思った杏子が近づいたとき、
手は再び柵の向こうへと沈んで消えた。
その夜、神田からメッセージが届いた。
それは、杏子が呼びかけたのと同時刻に送信された“下書き保存”状態のままのメッセージだった。
「杏子、ごめん、話があるんだけど、」
文面は途中で途切れていた。
翌日、神田は登校した。
だが、杏子を見ても何も言わず、ただ遠くを見るような目つきだった。
「……夢で見た。屋上に手があって、誰かが俺を呼んでて……」
「ねえ、そのとき、何を伝えたかったの?」
「わからない。ただ……柵を叩いて、“そっちはダメ”って言ってた気がする。」
屋上の“手だけの生徒”は、いつも何かを伝えようとしている。
それが救いの言葉なのか、警告なのか――
それは、呼んだ者にしかわからない。
ただひとつ確かなのは――
その手は、必ず“生きている誰か”のものだということ。
だがその時、その誰かは――決して、そこにいないのだ。
―――――――――――――――――――――――
あとがき
第72話『呼びかけに応える、屋上の“手だけの生徒”』をお読みいただき、ありがとうございました。
声に応えるものがあるとしたら、それは本当に“人”なのでしょうか。
あるいは、呼ばれた“記憶”だけが、形をなしてしまったのかもしれません。
次回は『第73話:音楽室のカーテン裏に立つ“指揮者”』を予定しております。
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