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第74話:黒板の端に書かれた“消せない指文字”

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「消したはずなのに、また浮かび上がってるんだよ……」

そう語ったのは、ある中学校の三年担任だった教師・牧野氏。
教室の黒板――その右下の隅に、毎朝必ず**何かの文字列が“浮き上がる”**のだという。

白墨ではない。
チョークの粉でもない。

指でなぞったような跡が、黒板の表面にうっすらと、けれど確かに浮かび上がる。

それも“ある名前”ばかりだった。

高田真理
高田真理
高田真理

まるで誰かが繰り返し、そこに彼女の名を“記そうとしている”。

教師の間では迷信として語られていた。
「あの教室の黒板には触るな」
「綺麗にしてもまた戻ってくる」
「下手に話題にすると、夢に出る」――と。

高田真理という名の生徒は、十年前に存在していた。
成績も良く、目立たないタイプだったが、どこか“鋭い観察眼”を持っていたという。
周囲が見落とすようなことにも気づく、静かな優等生。

その彼女が、自ら命を絶った。
校舎裏の倉庫で見つかったとき、黒板の隅に遺されたのは――指でなぞった彼女の名だった。

以来、彼女の名だけが、毎年黒板の隅に“戻ってくる”。

その出現には、ある“条件”があるとも言われている。

・その年の担任が“真理”という名を口にしたとき
・教室内で“見てはいけない誰か”の視線を感じたとき
・黒板を拭く手が“空気に押し返されるような感覚”を持ったとき

それらが揃うと、名は浮かぶ。

あるとき、担任が強くこすって消そうとした。
指の皮が擦れて、血が滲んだ。
それでも、翌朝には再び文字は現れていた。

それだけではない。
“教え子のノートの余白”に、その名が勝手に書かれていた。
“答案の裏”に、その筆跡が浮かび上がった。

誰もが恐れるようになった。
「彼女は、何を伝えたかったのか」
「どうして、自分の名だけを、黒板に残し続けるのか」

ある生徒が、黒板の名の下に小さく書いた。
「どうして?」

翌日、文字は変わっていた。

「だれも みてくれなかった」

――それが、最後に残された彼女の答えだったのか。
あるいは、いまもなお、誰かが見つけてくれることを、彼女は待ち続けているのか。

指の跡が消えないのは、想いが消えないから。

そう囁く教師も、もう定年を迎えたという。

―――――――――――――――――――――――

あとがき
第74話『黒板の端に書かれた“消せない指文字”』をお読みいただき、ありがとうございました。

教室という場所には、日々の感情が堆積していきます。
目に見えないものこそ、もっとも強く、残り続けるのかもしれません。

次回は『第75話:机の中の“もう一つの時間割”』を予定しております。

―――――――――――――――――――――――

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あなたの机の裏、黒板の隅、見慣れた教室のどこかに――
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