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第79話:黒板の左上、四度目の書き直し
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その教室の黒板には、奇妙な噂があった。
「左上の空白だけ、何度書き直しても、次の日には消えている」――
担任も、生徒も、皆が同じようにそれを経験していた。
最初はただのチョークの粉の問題、あるいは掃除当番の悪戯かと思われていた。
だが、ある日。
四度目の書き直しをした生徒が、姿を消した。
◆
三年三組の教室。
春から配属されたばかりの新任教師・橋口先生は、
「書いたことが翌日消えているのは、よくあることだ」と気にしていなかった。
左上。日直の名前、日付、ひとことコメントを書くスペース。
だがそこに、**“絶対に残るはずのチョーク文字が消える”**という現象が繰り返された。
生徒たちは、試すようになった。
・水で濡らしても消えないチョーク
・マーカーで黒板に書く
・写真を撮って証拠を残す
けれど、書いた“本人”が四度目の書き直しをすると、姿が消えるという噂が立ち始めたのは、それから間もなくのことだった。
最初にいなくなったのは、日直を繰り返し担当していた男子生徒。
「名前がすぐ消えるから」と自分で何度も書き直していた。
四回目を書いたその放課後、教室のロッカーの中にランドセルだけが残されていた。
次に消えたのは、好奇心から試した女子生徒。
黒板に「試験中」と大きく書き、それを四度目まで“上書き”した。
次の日、彼女の机の中に黒板消しが入っていた。
それだけを残して、彼女は行方不明となった。
◆
橋口先生が異変に気づいたのは、その翌週だった。
日直が書いた「今日の目標」が、また左上だけ消えていた。
先生は、ふと思い立ち、放課後に自らその場所に文字を書いた。
「確認。明日、消えていないか見ること。」
翌日、文字は消えていた。
だがそれだけではなかった。
先生の名前が、職員室の出勤簿から消えていたのだ。
職員室に置かれていたタイムカードも、出勤時間の欄だけ白紙に戻っていた。
「……俺、昨日来てなかったことになってる?」
困惑する橋口先生。
だが、それを誰に相談しても、「先週からあなたは見ていませんでしたよ」と言われる。
やがて橋口先生は、教室の録画記録を確認しようと校長に申し出るが、
その映像には――黒板の左上に近づく“黒い影”だけが映っていた。
誰が黒板に文字を書いても、四度目の上書きをした瞬間、
その影が現れ、腕をすっと伸ばす。
そしてその人は、すうっと立ち去るように“画面から消える”。
最終的に、三年三組の黒板の左上は封鎖された。
そこには今、テープでこう貼られている。
【記入禁止:この範囲に四度以上書き込まないこと】
だがそれでも、消えた名前たちは――
夜になると、うっすらと浮かび上がってくるという。
チョークで書かれた最後の言葉が、ぼやけて。
「ここにいるよ」
―――――――――――――――――――――――
あとがき
第79話『黒板の左上、四度目の書き直し』をお読みいただきありがとうございました。
日常の中に潜む“繰り返し”という動作。
そこに秘められた“限度”や“契約”のようなものがあるとすれば、
無意識に越えてしまったとき、あなたの足元が変わっているかもしれません。
次回は『第80話:目を合わせた鏡のなかの席』を予定しております。
―――――――――――――――――――――――
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「左上の空白だけ、何度書き直しても、次の日には消えている」――
担任も、生徒も、皆が同じようにそれを経験していた。
最初はただのチョークの粉の問題、あるいは掃除当番の悪戯かと思われていた。
だが、ある日。
四度目の書き直しをした生徒が、姿を消した。
◆
三年三組の教室。
春から配属されたばかりの新任教師・橋口先生は、
「書いたことが翌日消えているのは、よくあることだ」と気にしていなかった。
左上。日直の名前、日付、ひとことコメントを書くスペース。
だがそこに、**“絶対に残るはずのチョーク文字が消える”**という現象が繰り返された。
生徒たちは、試すようになった。
・水で濡らしても消えないチョーク
・マーカーで黒板に書く
・写真を撮って証拠を残す
けれど、書いた“本人”が四度目の書き直しをすると、姿が消えるという噂が立ち始めたのは、それから間もなくのことだった。
最初にいなくなったのは、日直を繰り返し担当していた男子生徒。
「名前がすぐ消えるから」と自分で何度も書き直していた。
四回目を書いたその放課後、教室のロッカーの中にランドセルだけが残されていた。
次に消えたのは、好奇心から試した女子生徒。
黒板に「試験中」と大きく書き、それを四度目まで“上書き”した。
次の日、彼女の机の中に黒板消しが入っていた。
それだけを残して、彼女は行方不明となった。
◆
橋口先生が異変に気づいたのは、その翌週だった。
日直が書いた「今日の目標」が、また左上だけ消えていた。
先生は、ふと思い立ち、放課後に自らその場所に文字を書いた。
「確認。明日、消えていないか見ること。」
翌日、文字は消えていた。
だがそれだけではなかった。
先生の名前が、職員室の出勤簿から消えていたのだ。
職員室に置かれていたタイムカードも、出勤時間の欄だけ白紙に戻っていた。
「……俺、昨日来てなかったことになってる?」
困惑する橋口先生。
だが、それを誰に相談しても、「先週からあなたは見ていませんでしたよ」と言われる。
やがて橋口先生は、教室の録画記録を確認しようと校長に申し出るが、
その映像には――黒板の左上に近づく“黒い影”だけが映っていた。
誰が黒板に文字を書いても、四度目の上書きをした瞬間、
その影が現れ、腕をすっと伸ばす。
そしてその人は、すうっと立ち去るように“画面から消える”。
最終的に、三年三組の黒板の左上は封鎖された。
そこには今、テープでこう貼られている。
【記入禁止:この範囲に四度以上書き込まないこと】
だがそれでも、消えた名前たちは――
夜になると、うっすらと浮かび上がってくるという。
チョークで書かれた最後の言葉が、ぼやけて。
「ここにいるよ」
―――――――――――――――――――――――
あとがき
第79話『黒板の左上、四度目の書き直し』をお読みいただきありがとうございました。
日常の中に潜む“繰り返し”という動作。
そこに秘められた“限度”や“契約”のようなものがあるとすれば、
無意識に越えてしまったとき、あなたの足元が変わっているかもしれません。
次回は『第80話:目を合わせた鏡のなかの席』を予定しております。
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