81 / 102
第80話:目を合わせた鏡のなかの席
しおりを挟む
その席は、いつも空いていた。
教室の後ろ、いちばん窓際の席。
三年一組、出席番号最後の席――にもかかわらず、名簿にはその番号が存在しない。
新学期の席決めのたびに、なぜかその席だけは誰にも割り当てられなかった。
誰が座っても、翌日には勝手に席替えがされていたのだ。
「ここ、使っていいよな?」
ある生徒がそう言って、弁当をその席で食べた昼休み。
彼のカバンから、勝手にプリントが抜き取られ、誰かの文字で埋め尽くされていた。
「いっしょに たべて くれて ありがとう」
「つぎは うしろを みてね」
「なまえを よんで くれたら いける きがした」
その文字はすべて、鏡文字だった。
左右が反転していて、正しく読むには鏡が必要だった。
◆
ことの発端は、担任の山瀬が掃除用具入れから大きな鏡を持ち出した日だった。
壊れかけの姿見。
誰が持ち込んだか不明で、校内にも記録がない。
「ちょうどいい。教室の後ろに置いておくか」
軽い気持ちで、黒板の反対側の隅に立てかけられたそれは、
空席のすぐ横に置かれることになった。
そこから、異変は始まった。
授業中、誰もいないはずのその席に、
「なにかの肩だけ」が映りこむようになった。
鏡の中で、白いシャツの袖が机に肘をついている。
だが、振り返ってもそこには誰もいない。
ある日、鏡の前を通った女子生徒が、急に立ち止まった。
「……いま、私の席に誰かいた」
その日以来、彼女は授業中に振り返ることをやめた。
視線を感じると言って、トイレにも友人を付き添わせるようになった。
だが決定的だったのは、夏休み前の大掃除のとき。
掃除当番だった男子生徒が、
鏡の中で“自分の背後に座っている誰か”と目を合わせてしまったのだ。
「……笑ってた。ずっと、こっち見て笑ってた」
彼はその日から無口になり、やがて登校拒否になった。
夏休み明け、誰かがその鏡を捨てようとした。
だが、どこに運ぼうとしても“教室の隅”に戻ってきていた。
しかたなく、鏡の表面には白い布がかけられた。
だが時折、布の裏から爪でひっかいたような音が響くという。
その音に、空席の椅子が“カタン”と鳴るのを聞いた生徒もいる。
いまだに、その席は誰にも割り当てられていない。
だが、鏡のなかでは――誰かが、じっとあなたを見ている。
名前を呼ばれるのを、待っている。
―――――――――――――――――――――――
あとがき
第80話『目を合わせた鏡のなかの席』をお読みいただきありがとうございました。
教室という、誰にとってもありふれた場所にある“空席”。
そこに誰もいないと信じることは、実はとても“根拠のないこと”なのかもしれません。
鏡の中に映るものが、自分だけでないと気づいたとき――
その席には、もう“誰かが座っている”のです。
次回は『第81話:夏の終わり、机の中の封筒』を予定しております。
―――――――――――――――――――――――
いいね・フォローのお願い
身の回りの“空いている席”に、何もいないと断言できますか?
本作が気に入っていただけたら、ぜひいいねとフォローで応援をお願いいたします。
教室の後ろ、いちばん窓際の席。
三年一組、出席番号最後の席――にもかかわらず、名簿にはその番号が存在しない。
新学期の席決めのたびに、なぜかその席だけは誰にも割り当てられなかった。
誰が座っても、翌日には勝手に席替えがされていたのだ。
「ここ、使っていいよな?」
ある生徒がそう言って、弁当をその席で食べた昼休み。
彼のカバンから、勝手にプリントが抜き取られ、誰かの文字で埋め尽くされていた。
「いっしょに たべて くれて ありがとう」
「つぎは うしろを みてね」
「なまえを よんで くれたら いける きがした」
その文字はすべて、鏡文字だった。
左右が反転していて、正しく読むには鏡が必要だった。
◆
ことの発端は、担任の山瀬が掃除用具入れから大きな鏡を持ち出した日だった。
壊れかけの姿見。
誰が持ち込んだか不明で、校内にも記録がない。
「ちょうどいい。教室の後ろに置いておくか」
軽い気持ちで、黒板の反対側の隅に立てかけられたそれは、
空席のすぐ横に置かれることになった。
そこから、異変は始まった。
授業中、誰もいないはずのその席に、
「なにかの肩だけ」が映りこむようになった。
鏡の中で、白いシャツの袖が机に肘をついている。
だが、振り返ってもそこには誰もいない。
ある日、鏡の前を通った女子生徒が、急に立ち止まった。
「……いま、私の席に誰かいた」
その日以来、彼女は授業中に振り返ることをやめた。
視線を感じると言って、トイレにも友人を付き添わせるようになった。
だが決定的だったのは、夏休み前の大掃除のとき。
掃除当番だった男子生徒が、
鏡の中で“自分の背後に座っている誰か”と目を合わせてしまったのだ。
「……笑ってた。ずっと、こっち見て笑ってた」
彼はその日から無口になり、やがて登校拒否になった。
夏休み明け、誰かがその鏡を捨てようとした。
だが、どこに運ぼうとしても“教室の隅”に戻ってきていた。
しかたなく、鏡の表面には白い布がかけられた。
だが時折、布の裏から爪でひっかいたような音が響くという。
その音に、空席の椅子が“カタン”と鳴るのを聞いた生徒もいる。
いまだに、その席は誰にも割り当てられていない。
だが、鏡のなかでは――誰かが、じっとあなたを見ている。
名前を呼ばれるのを、待っている。
―――――――――――――――――――――――
あとがき
第80話『目を合わせた鏡のなかの席』をお読みいただきありがとうございました。
教室という、誰にとってもありふれた場所にある“空席”。
そこに誰もいないと信じることは、実はとても“根拠のないこと”なのかもしれません。
鏡の中に映るものが、自分だけでないと気づいたとき――
その席には、もう“誰かが座っている”のです。
次回は『第81話:夏の終わり、机の中の封筒』を予定しております。
―――――――――――――――――――――――
いいね・フォローのお願い
身の回りの“空いている席”に、何もいないと断言できますか?
本作が気に入っていただけたら、ぜひいいねとフォローで応援をお願いいたします。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
最終死発電車
真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。
直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。
外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。
生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。
「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/1/2:『そうしき』の章を追加。2026/1/9の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/1:『いえい』の章を追加。2026/1/8の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる