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第84話:二番目の非常階段

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非常階段は、ひとつだけではなかった。

校舎の南棟――普段は立ち入りが制限されている旧校舎の裏側に、壁に沿って伸びる細い鉄の階段がある。
誰が呼び始めたのか、その階段は「二番目の非常階段」と呼ばれていた。

正規の非常階段と違って、避難訓練でも使われることはない。
先生たちも、口を揃えてこう言う。

「あれは古いだけだ。今は使えないから、近づかないように」

だが、生徒たちは知っている。
その階段を降りてしまった者は、戻ってこられないと。



3年A組の佐久間翔太がいなくなったのは、梅雨のはじまりだった。

朝は元気に登校し、1限目の出席も取っていた。
だが、2限目の開始チャイムが鳴る頃には姿がなかった。

机はあった。荷物もあった。教科書も置いてある。
靴箱には登校時のままの靴。
だが、校内放送を使って呼びかけても、どこにもいなかった。

数日後、旧校舎の裏手で奇妙なものが見つかった。

二番目の非常階段の途中、5段目に――佐久間の学生証と、生徒手帳だけが置かれていたのだ。
風も強く、雨も降っていたというのに、それは濡れていなかった。

まるで、そこに“慎重に”置かれたように。



それからというもの、二番目の非常階段には**「ある条件でだけ姿が見える」**という噂が立った。

曰く――
・朝の光が曇っている日
・一人で登校した朝
・三階の旧図書室から「目を合わせたあと」に
・“自分の名前”を3回唱えると

その階段が“ぐにゃり”と歪み、鉄のきしみ音と共に、現実から“外れていく”のだという。

「でも、戻ってくる方法もあるんだよ」
ある生徒が言った。

「名前を思い出せたら、戻ってこられる。
でも、それを忘れた人が、どこかにいるままなんだって」

校内には、一人だけ名簿に名前があるのに、誰も顔を思い出せない生徒がいる。
写真も、記録も、声も、何もない。
担任ですら、彼の存在を「いたかもしれない」としか言えない。

その生徒の名前は――佐久間翔太、だっただろうか?

――それとも、もっと、前からいた……?

―――――――――――――――――――――――

あとがき
第84話『二番目の非常階段』をお読みいただきありがとうございます。

この話は「自分自身の記憶」が薄れていく恐怖を中心に構成しています。
あなたの名前は、いま、確かに呼べますか?
忘れてしまったその瞬間に、あなたは“戻れない階段”にいるのかもしれません。

次回は『第85話:音楽室のドアが開く時』。
静寂のなかに響く旋律が、あなたを誘います。

―――――――――――――――――――――――

いいね・フォローのお願い
思い出せない誰かの名前を、そっと唱えてください。
この語りが続いていくよう、**「いいね」と「フォロー」**をお願いいたします。

次の“話”が、また一つ、灯されますように。







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