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第87話:封印された連絡ノート

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連絡ノート。
それは、担任と保護者、生徒の三者をつなぐ橋渡しの道具だった。
だが、十数年前――この学校では、ある“理由”からその制度が廃止された。

「あるノートが、戻ってこなかった」
それが事の始まりだったという。

提出されたはずのノートが、朝になっても返却されない。
職員室にも、担任の机にもない。

だが奇妙なことに、誰も「どの生徒のノートだったのか」を思い出せなかった。
保護者にも確認が取れず、名簿を調べても該当者がいない。

それでも、ある朝――保健室の棚の奥から、そのノートが見つかった。



問題のノートは、色の褪せた深緑の表紙に、かすれた白インクで書かれていた。

《○○小学校 三年生 れんらくノート》

○○には名前が書かれていた形跡があるが、擦れて読めない。

ページをめくると、そこには整った文字でこう書かれていた。

きょうは おかあさんが しんでいました。
でも せんせいは しっているとおもいます。
わたしは しっていました。

あしたは わたしが しぬばんです。

担任は震え上がり、すぐに校長に報告した。
だが、ノートはいつのまにか失われていた。

ただ、保健室の棚には、誰も置いた覚えのない黒いバインダーが追加されていた。
中を開くと、そこには全ページが黒く塗り潰された“写し”が挟まれていたという。



ある時期から、この“れんらくノート”は、定期的に見つかるようになった。

誰かの机の奥に、ロッカーの裏に、保健室のベッドの下に。
しかも、見つけた者は必ず、その夜「誰かにノートを返さなければ」という衝動に駆られるという。

教師の中には、それを止めようとした者もいた。
だが、止められた生徒は目を見開き、こう言った。

「だって、渡さないと――わたしの番になるんです」

その言葉を最後に、その子は転校。
以後、誰も連絡が取れなくなった。



いま、この学校では連絡ノートは使われていない。
だが、夜の図書室の隅――職員用の書棚のいちばん下。

引き出しの底には、今もなお“返却を待っているノート”が一冊だけ、静かに横たわっている。

そのノートに名前を書くのは、次にあなたの番が回ってきたときかもしれない。

―――――――――――――――――――――――

あとがき
第87話『封印された連絡ノート』をお読みいただきありがとうございます。

日常に溶け込んだ“記録媒体”――ノートやバインダーは、時にそれ自体が“意志”を持つことがあります。
この話では、記録に縛られた意志と、名前という「順番」の怖さを描きました。

次回は『第88話:昇降口の鏡に映るのは』。
“最後に登校した人”だけが見るものとは、一体……。

―――――――――――――――――――――――

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もう戻らないその記録が、まだ誰かを探しているかもしれません。

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物語は、まだ――百に至っていません。
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