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第96話:鏡のなかの明日

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朝の支度中、洗面所の鏡に向かっていた女子生徒・千葉美羽は、ふと奇妙なことに気づいた。

「……あれ?」

鏡の中の自分が、わずかに“遅れて動いた”のだ。

一瞬の違和感。
まばたきが、コンマ一秒遅れただけのようにも見えた。

けれど、確かにそれは「同時」ではなかった。



最初は気のせいだと思った。
眠気のせい、照明の揺らぎ、鏡の劣化……自分を納得させる理由はいくらでもあった。

だが次の日、鏡の中の“自分”は、美羽が顔を洗う前に、水に手を伸ばしていた。

――まるで、「動きを先読みしている」ように。

驚いて鏡から目をそらすと、すぐに元通りになっている。
けれど、視線を戻すと、鏡の中の“自分”が笑っていた。

美羽の口元は、笑っていなかったのに。



鏡の中の“それ”は、日に日に明確な“別人格”を見せ始めた。

ときに髪を結んでいたり、制服のリボンの色が違ったり。
笑い方が違い、目つきが冷たくなり、やがて口元でこう囁いた。

「かわってあげようか?」

その夜、美羽は夢を見た。
夢の中で鏡に引きずり込まれ、そこに立っていたのは“もう一人の自分”。

白い洗面台の前で、美羽は“鏡越し”に自分自身を見ていた。

入れ替わったのだ。



朝、母親が呼びに来た。

「美羽、起きなさい。学校遅れるわよ」

布団の中の美羽が返事をする。「うん、わかった」

けれど洗面所の鏡には、誰も映っていなかった。

そして、鏡の奥で小さな“カツ、カツ”という足音が聞こえていることに、母親は気づいていなかった。

誰かが、鏡の“向こう”を歩いている。

今でも、千葉家の洗面所の鏡は、ほんのわずかに“ズレて”いるという。

それは、元に戻れなかった誰かが、ずっとこちらを見ているからだ。

―――――――――――――――――――――――

あとがき
第96話『鏡のなかの明日』をお読みいただき、ありがとうございました。

「鏡」は、もっとも身近に存在する“もう一つの世界”。
そこにいるのが自分だと信じていることが、実はもっとも危ういのかもしれません。

次回は『第97話:閉ざされた教室と、指先の音』。
開かずの教室にまつわる、音だけが残された“語り”です。

残りあと三話。どうぞ最後まで見届けてください。

―――――――――――――――――――――――

いいね・フォローのお願い
今日、鏡に映った“あなたの顔”は、本当にあなたでしたか?

もし少しでも違和感を覚えたら、それは語りのはじまりかもしれません。
次なる話へ進むため、いいねとフォローをどうぞ。
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