百の話を語り終えたなら

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第97話:閉ざされた教室と、指先の音

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旧校舎の三階、北端の突き当たりにある「三の五」教室。
今では使われていないその教室には、生徒の誰もが「入ってはいけない」という暗黙の了解があった。

ドアには錆びた南京錠。
窓は板で打ちつけられ、遮光カーテンが内側から垂れ下がっている。
だが、放課後のある時刻になると、そこから必ず音が聞こえてくる。

――カタ、カタ、カタ。

まるで誰かが、机の上を指で叩いているような音。



放送部に所属する後藤梨々は、怪談特集用に“校内の噂”を集めていた。
当然、「三の五」の話にも興味を惹かれた。

教師に尋ねても「昔、事故があってね」と曖昧に濁される。
年配の用務員だけが、小さな声でこう教えてくれた。

「あそこでは昔、ひとりの女生徒が……いや、やめとこう。話したあと、あんたが“聞こえる側”になるかもしれんからな」

梨々は、録音機材を持ち出して深夜の旧校舎に忍び込んだ。
時刻は午後七時を回った頃。校舎内はすでに無人。
彼女は録音マイクを「三の五」の扉の前に設置し、録音を開始した。

初めはただの静寂。
だが、七時十三分。

――カタ、カタ、カタ。

はっきりと音が鳴った。
ノイズではない、明らかに「何かがそこにいる」音だった。

彼女は震える手でマイクを回収し、その場を離れた。
けれど、次の日。

放送室に戻り、音源を再生していたときのこと。

誰もいないはずの「三の五」の中から――声が録れていた。

「……ここ、に……います」

再生を止めても、音はスピーカーから漏れ続けた。
マイクを切っても、録音機を外しても、電源を落としても、その声だけは止まらなかった。

それ以来、放送室のスピーカーからは、午後七時十三分になると、

――カタ、カタ、カタ。

と、指で机を叩く音だけが流れるようになったという。

誰もいないはずの「三の五」の、誰かが叩く音。

今でも放送部では、その時間に機材を扱うことを“禁じられている”。

誰かの声が、録れてしまうから。

―――――――――――――――――――――――

あとがき
第97話『閉ざされた教室と、指先の音』をお読みいただき、ありがとうございました。

音というのは、時に“記憶”よりも鮮明に、何かを残してしまう。
録音された声が、誰に語りかけているのか。
それが「語られた者」自身であったとき、どうなるのでしょうか。

次回は『第98話:百の声をもつ者』。
連作の核心に触れる、前夜の語りです。

―――――――――――――――――――――――

いいね・フォローのお願い
今、あなたの部屋にスピーカーはありますか?
ふと流れるノイズ、その音に耳を澄まさないように。

続きをご覧になりたい方は、いいねとフォローをぜひ。
百話目の終わりへ、静かに近づいています。
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