百の話を語り終えたなら

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第99話:つづけ、わたしのかわりに

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慧が消えた日、百物語の記録ノートは、後輩の手に渡った。
後藤志織。
かつて慧とともに語りを集め、時に録音し、時に現場の空気をそのまま持ち帰っていた、慎重で聡明な語り部。

そのノートの最後にあった「第99話:つづけ、わたしのかわりに」の言葉を見て、彼女は震えた。

慧は最後の語りを“自分で完結”させるのではなく、他人に託した。
それはつまり、「百の話」を“完成させてはいけない”という意味だった。



志織は葛藤していた。

百話目を語るかどうか。

百物語の儀式では、最後の話を語り終えた瞬間に“何かが起きる”とされている。
本来は火を灯し、百の蝋燭を一話ごとに消していく。
そして百本目の火が消えたとき――“異界の扉が開く”と。

だが、志織が手にしたノートには蝋燭はない。
それでも、“語る”という行為自体が、なにかを招く。

慧の部屋から持ち帰ったノートには、奇妙な余白があった。
九十九話目のあと、一ページ分空白があったのだ。

書くなということか、
書けということか。

彼女は決めかねたまま、深夜の研究室でノートを開いた。
静かに、録音マイクをセットし、語り始める。

これは、慧という人間についての記録であり、
自分が彼とともに過ごした時間の記憶であり、
“なぜ彼が語り部となったのか”の記録でもあった。

「第99話――」

彼女が口を開いた瞬間、ノートの余白に、インクもペンも使っていない文字が浮かび上がった。

《それでも、つづけるの?》

その問いに、志織ははっきりとうなずいた。

「はい。あなたのかわりに、語ります」

その時、録音マイクが“ひとりでに動き”、静かに再生を始めた。

音源には、志織の声と、もう一つ――
慧の声が、重なるように、語りをなぞっていた。

彼はまだ、そこにいた。



九十九話目の録音は、今も大学の図書館の地下、資料室に保管されている。
再生するには許可が必要だ。
だが、許可を得た者は皆、口をそろえてこう言う。

「自分の名前を、語りの中に聞いた」

誰の話でもない、
自分自身の“語られていない過去”がそこにあったと。

百の話は、誰かのものではない。

読む者、聞く者、語る者すべてが――
その一話を持っているのだ。

―――――――――――――――――――――――

あとがき
第99話『つづけ、わたしのかわりに』をお読みいただき、ありがとうございました。

百物語という形式の中に、語り継ぐ責任と、終わらせてはならないという怖さを込めました。
語り部が誰かに変わることで、話は永遠に続くのかもしれません。

いよいよ、次は最終話――『第100話:百の話を語り終えたなら』。
この長い連作の締めくくりを、どうか最後までお付き合いください。

―――――――――――――――――――――――

いいね・フォローのお願い
ここまで読んでくださったあなたこそ、次の語り部かもしれません。
「読む」という行為は、「語りを受け取る」ことと同義です。

どうか、終わりの物語にたどり着く前に――
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