百の話を語り終えたなら

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第100話:百の話を語り終えたなら

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真夜中、誰もいない大学の資料室。
後藤志織は、百話目を語る覚悟を決めて、古い録音機の前に座っていた。

彼女の手元には、慧の残したノート。
そして、未だ白紙のまま残された「百話目」のページ。

ここまでで集められた九十九の話は、すでに“語られた”。
だが最後の一つ――百番目の話だけは、“語るべき”かどうか、未だに迷う。

だが、誰かが終わらせねばならない。
それは恐ろしい呪いではなく、“祈り”にも似た終焉の儀式。
語られたすべてを、この世に“置いていく”ための。

志織は深く息を吐いた。

「……第百話。これは、わたしの話です」



彼女の語りは静かに始まった。

小学五年のとき、志織は“死んだはずの祖母”に会ったことがある。
夏休みに一人で留守番をしていた日のことだ。
裏庭で、祖母が盆栽をいじっている姿が見えた。

ああ、おばあちゃん帰ってきたんだ。

そう思って、縁側から声をかけた。
けれど祖母は振り返らず、ただ黙って、枝を剪定し続けていた。

志織が家の中に入ると、仏壇に線香があがっていた。

「あれ……? 昨日はなかったのに」

違和感はあった。
でも、子供の頃の彼女は、その意味を深く考えなかった。

その年の夏休み、祖母の遺影がなぜか“笑っていた”ということ以外は。

それは今まで、誰にも話したことがない“語られていない怪異”。

「これは、記録されるべきかどうか、いまでもわかりません。
 けれど、私はこの話をもって、百の語りを完了させます」

その瞬間、資料室のすべての照明が、一瞬だけ“点滅”した。

録音機が唸るように低く動き出す。
慧の声が、また重なる。

《ありがとう、志織》

その言葉に、彼女は泣いた。
語ること、思い出すこと、記すこと――
すべてが誰かの“居場所”を残すためだったのだと。

そして、ノートの最後のページに、ひとりでに文字が現れる。

《語り終えた者に、最後の問いを。
 語られたものすべてを、忘れることを望みますか。
 それとも、伝えますか》

志織は、何も書かなかった。
ただノートを閉じて、静かに録音機のスイッチを切った。

そして、机の下に置かれた蝋燭――百本目に、マッチを近づけた。

「話し終えたけど、
 まだ誰かが聞いてる限り、終わりにはならないわ」

その火は、消えなかった。



百の話が語られた――
それでも、“その声”は今も誰かの中にある。

あなたがこの話を読んだ時点で、
あなた自身もまた、語り部となる。

“百の話を語り終えたなら”、
次は――あなたの番。

―――――――――――――――――――――――

あとがき
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
第100話『百の話を語り終えたなら』は、物語のタイトルそのものでもあり、全編の“閉じ”の語りとなります。

怪談とは、人が「語る」ことによって生まれ、誰かが「聞く」ことで意味を持つもの。
そしてそれは、終わりではなく、引き継がれる火のような存在です。

あなたのなかにも、きっと“語るべき話”がある。

この物語は終わります。
けれど、あなたが次の物語を紡ぐことを、静かに願っています。

―――――――――――――――――――――――

いいね・フォローのお願い
全100話、最後までお読みいただきありがとうございました。
この物語が心に残りましたら、ぜひいいねとフォローをお願いします。
次の怪談は、あなたが語るものかもしれません。
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