if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜

かまぼこのもと

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第一話

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1615年。

大阪夏の陣。
河内。ちょうど、現在の大阪府八尾市あたりだろうか。
奇襲に成功した長宗我部盛親の怒号が響き渡ってきた。
「高虎ぁ! 姿を現せ!」
長宗我部軍の槍衾の前に藤堂は多数の被害を出す。
「藤堂高刑、討ち取った!」
次々に戦死していく藤堂軍は混乱を深め、動けない。
その藤堂軍の中にいる武将の一人が微笑みながら盛親に近づく。
「殿……お待ちしていましたぞ」

桑名吉成だ。
発狂しているのだろうか?
目の焦点が合っていない。
狂気の笑みを浮かべ、盛親に近づく。


「アホ! この裏切り者が!」

長宗我部の旧臣が彼を斬りつけていく。
彼は笑みを浮かべたまま抵抗はしない。

ーーさてと……土佐の海に帰るとするか。

彼は瞳を閉じ、旅立っていく。

盛親は吉成を見つけたとき……すでに遅く。亡骸となっていた。

盛親は俯き、悲しみに耽る。

「吉成……ワイはどうしたらええがじゃ?」

彼は親友で有能な部下だった吉成の死により、我に返り悩み始める。

ーーまだ死にたくはないが、又兵衛殿も真田殿も死んでいる頃だろう。ましてや重成はもう……どうしようもない……逃げようか?

「藤堂高虎、討ち取ったり!」

足軽の一人が叫ぶ。

盛親はハッとした。
足軽が持つ首を見ると、確かに高虎である。
盛親が足軽に事情を聞く。
どうやら、木村重成の小隊100人が高虎本隊と遭遇。
追いつかれたと勘違いして混乱した藤堂軍の中にいた高虎を討ち取ったという。

「重成……ということは彼奴は無事か?」
「はい、今は散り散りになり500人程しかいませんが」

こちらはほとんど兵士が減っていない。
小勢でも木村重成が来れば持ち直すことは可能で井伊直孝が攻めてきても戦い抜けるはずだ。

そして、更なる吉報が舞い込んできた。
ーー幕府軍、道明寺方面で大打撃。
真田後藤隊が霧の中であるが、合流に成功。幕府側に多数の戦死者が出ており、機を見た大野治長と御宿官兵衛が秀頼と共に出陣し、本隊を脅かしているという。

これが勝利の実感だろうか?

長宗我部盛親は生まれて初めての戦の勝利を前に震えた。

秀頼の参戦により豊臣軍の兵士たちはトランス状態。
脳内麻薬が分泌され、死の恐怖や痛みを感じず、ひたすらに闘った。
戦に慣れていない兵士で構成された幕府軍は恐怖で逃げ出す者も現れた。

方や、徳川家康は誤算が続いていた。
軍師として登用した立花宗茂は最も外してはいけないことを外してしまったからだ。

それは

ーー秀頼の出陣。

これにより豊臣軍の指揮は上がる。

全く勝ち目がない戦。
その暗闇に光明が差し込んできたのだ。

15年間の虐げられてきた生活から脱却できる。

家族を助けられる。

痛みなどは感じない。
秀頼が勝てば0からやり直せる。
いや、どう見てもプラスから人生を清算できる。



さらに藤堂高虎、伊達政宗と松平忠輝の行方不明が情報に入ってきた。

道明寺、若江方面は最早総崩れである。

勢いは抑えきれず、豊臣軍の声が聞こえてくるほどだ。

宗茂は崩れ始めた本隊の指揮を開始した。

豊臣秀吉が西国無双と評した男。
狂ったように襲いかかる真田、後藤、毛利の部隊を何度も撃退した。

ーー実に不甲斐ない!

家康は顔を赤らめ、怒りを込めた口調で言う。

「よい、よい、情けないわ。最後の戦で斯様な醜態を晒すとは……介錯を頼む」

「なりませぬ!」

家臣一同が家康の自害を踏みとどまらせる。



この日の戦闘を終了させた。


夜となり、急遽、諸将が集められた。
物見に来ただけの黒田長政や細川忠興の表情が青ざめている。


「藤堂高虎殿、伊達政宗殿、松平忠輝殿、行方知れず。戦死したものと……」

黒田長政は嘔吐した。
自分の配下だった後藤又兵衛が大変なことをしてしまった。
あれ程の実力者を追放したことは咎められるだろう。

そして、細川忠興も自分の家から何人か豊臣側についた者がいる。
責任論は付きまとうことになるだろう。



一方で、豊臣側にいる主力は亡くなっていない。
しかも、大筒を奪われたとの情報がある。

家康は表情を顔に出さないが、怒りの空気を醸し出しており、諸将たちは俯き、覇気がない。

「ガハハ! 家康様! 怒りは体に良くありませぬぞ!」

聞き覚えの笑い声。

ーー伊達政宗だ。

彼は泥塗れの顔面で真っ黒になった顔で現れた。


「当家の者は皆討ち死に致しました! いやはや、此度の戦、敗北にございますなぁ! 宜しいではないですか、人生最後の戦が敗北! あの世で忠勝殿や皆様が笑っておられますな」

家康は笑顔で返答する。

「そうであるな。どうあれ、明日は最後の戦だ。悔いがないようにせねばな」

家康の言葉に全員の士気が上がる。

一方、

「これが本多忠朝、奥田忠次、伊達家の家臣片倉重長……」
豊臣側は討ち取った武将たちの首検地を行っている。
「そして……」

並べられた三人。

「まずは此度の戦で主力となった藤堂一族にございます」

豊臣家臣団は口々に藤堂高虎を罵倒する。
そうだろう。
元は浅井家の家臣であり、秀頼の母である淀君や浅井井頼に対して二度も裏切ったことになるからだ。
更に増田盛次が三人の首を持ってくる。

「松平忠輝、忠直、義直にございます」

徳川家一門も豊臣家の兵士たちの狂気に勝てず、討ち取られていた。

豊臣家臣団は徳川家に冷遇された者たちの集まりであり、ヘイトに満ち溢れている。
彼らは首に向かい口々に罵っていた。

秀頼はそれを不快に感じ、

「もうやめい。お主ら、それでも誉高き武家であるか? 義直殿に関してはまだ元服したばかりであるぞ? 丁重に葬ってやれ」

家臣たちは静まり返った。

大野治長と後藤又兵衛、木村重成は安心した。

ーーこのお方は狂ってはおらぬ。

そして、遠くで大砲の音が聞こえる。

「團右衛門にも伝えよ。夜襲は終わりだ。ゆっくり寝て明日に備えよとな」

「しかし、家康も先の戦さで夜通し大筒で……」

治房は畏まりながら反論するが、秀頼は冷たい視線で返す。

「家康殿は間違っておられる。同じようになってはならぬのだ。良いな?」

治房がそう言うのも仕方ない。
冬の陣で弟の大野治胤が戦死しているのだ。

それなのに、まだ徳川家康に対して敬意を払う秀頼。
一部家臣からは不満が聞こえるが、大名だった浪人衆からは尊敬の眼差しで見つめられていた。

「盛親殿、良いか?」

盛親が現れた。

「藤堂配下に何人か其方の家臣だった者がいたと聞いた。戦が終われば、土佐一国を其方に託す故に見つけたら言ってくれ。丁重に扱おう」

秀頼は盛親の悲しみを理解していた。

盛親は平伏し涙を流して喜んでいる。

戦況は完全に豊臣方に傾いていた。
史実で堺の街を焼き払った大野治胤は冬の陣で戦死しており、徳川家康の兵站となっていた堺の商人も安井道頓が間に入り、大半は豊臣家に寝返っている。

その背後にはイスパニアの影があり、豊臣方に武器弾薬などを提供しており、イスパニアの商人が堺に参入してきて冷遇されるだろう。
堺の商人の焦りが戦局を変えてきたのだ。

家康は昨日までとは違い、この圧倒的不利となった情勢で勝利を収めなければならなくなってしまった。
今まで本多忠勝や榊原康政、井伊直政といった猛将が武田信玄との三方ヶ原の戦い以外で不利な状況を作り出さず……いや、彼らの能力で乗り越え、戦ってきた。
それも今は違う……彼らはいない。
果たしてどうなるのか?

続く
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