if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜

かまぼこのもと

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第七話

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大坂城では重臣たちが集まっていた。
それは紀伊を治めていた長宗我部盛親など、夏の陣を豊臣方で戦った武将たちである。
もちろん、その中に前田利政もおり、顔馴染みの武将たちと昔話に花を咲かせていた。

しかし、そんな和やかな空気も評定が始まると穏健派と強硬派が真っ二つに対立し合う。


「早く織田信雄、板倉勝重どもを処刑し、京に攻め上がらねばならぬでしょう! 何をしているのですか!?」
大野治房が語気を強め、話している。
「何を言っちゅうがか? 正気かよ?」
穏健派の盛親が冷静な口調で治房を窘めた。
「な、何を言うか!」
治房はカッと苛立ちを隠さず語気を強め話すが、盛親の冷静な表情は変わらない。
その二人の間に毛利勝永が割って入る。
「落ち着きくだされ。治房殿のお気持ち理解できます。しかし、京には未だ徳川方数万の兵力がいる。その上に伊達政宗や水野勝成などの猛将がいると聞きました。完勝するのは難しいかと思われます」
真田信繁も淡々と話し出す。
「左様にございます。今は荒れた堺と紀伊を建て直すが先。せっかく、前田利政殿が助けに来てくれました。そこに板倉勝重殿が紀伊の政に参加してくれるのなら、百人力というもの」
盛親は信繁に呼応する。
「ああ、それな。勝重殿のことじゃが、ウチは構わんけん。勝重殿は荒れた京を復興させた名士と聞いた。会うのが楽しみや。利政殿はどうじゃ?」
利政は盛親の言葉に頷き、
「私も盛親殿に同意します。さらに大和も片桐且元殿が秀頼様の傘下に入ると聞きました。治める地が増え、今は猫の手も借りたいくらいでしょう?」
と言い、さらに

「のぅ? 治房殿」

治房は黙った。

大和を燃やし荒れさせたのは彼自身であり、大和郡山城を落とし筒井定慶を追い出し、混乱を招いたのも彼である。

「まぁ良い。治房は私を守るためにしたこと。今後は民を巻き込むでないぞ。筒井殿を大和に戻し……そうだな。明石全登殿、御宿政友殿。筒井殿を助けに行ってくれぬか?」

二人は秀頼の言葉に頷く。

さらに秀頼はその場を落ち着かせる言葉を述べる。
「うむ。それに当家は秀忠殿と一時的に講和を結んでおる。攻め立てるなどすれば、武士の理から反している。今は引き続き、大坂と紀伊、且元のいる大和を建て直す。板倉勝重殿はそれを手伝っていただく。それで良いな?」

「なりませぬ」

淀君も冷静に意見を述べ始める。

「板倉勝重は死罪こそが相応しい。彼奴がいなければ豊臣は……」

そして、

「淀様……貴方様がいれば、いずれ豊臣家はまた滅ぼされますね」

側室の身でありながら、夏の陣の際に秀頼や勝永と共に戦った彩女が淀君を挑発したのだ。
淀君の顔が怒りに変わっていく。

「今、何を申しましたか? 徳川の雌犬めが!」



「淀様。今の貴方様のお顔。狂気に満ちておりますよ。殺生を繰り返せば恨みを買う。わかりませぬか? 貴方様や太閤殿下がしてきたこと……それを知る度に秀頼様は悲しい顔をしていました。新しき世に無益な殺生は必要ございません」

彩女は物覚えがつく前に母や父を失い、育ての親であり、師である人物も関ヶ原で失っている。
そして、彼女自身も暗殺者となり必要であれば仲間や主君を殺害しており、そんな世界に失望していた。

逆に混乱により世界を破壊すること。
その上で秀頼と共に果てることが淀君の願いである。
共に生きたい彩女と死を願う淀君……二人は互いに嫌悪の対象である。
あの徳川方の刺客が秀頼を襲った日、彩女が刺客を斬った瞬間。
淀君が見た一閃……彼女が避けていたもの……秀頼から遠ざけていたもの……それを最短距離で使うものが現れた。

嫌悪や恐怖。
淀君はその全てにネガティブな要素しか感じ得なかった。

それ故に彩女に対しては冷たく接していた。
淀君は確かに愛しい男の母である。
しかし、彩女は向けられる殺意に嫌悪と警戒の気持ちを抱く。
毛利勝永は針が突き刺さるような痛々しい空気を切り裂くように言う。

「殿下は私みたいな小物ですら名前を覚えていただき、可愛がってくれました! 彩女殿。貴方様の言いたいことはわかります。ですが、殿下は私にとって父なのです。他の誰が悪く言おうが、私は違う。どうか考え直してくだされ」

毛利勝永は明るい口調で話した。
しかし、声の内側には涙がある。
彼は唯一、豊臣家への恩返しのために参戦してきた。
秀頼が前線に立ち、指揮をし、また刀を持ち次々と兵士たちを斬り伏せていく勇敢な姿を見て、涙を流して喜んだ。

ーー豊家は安泰だ。

そして、時を超えて豊臣家の筆頭として参戦できた。
嬉しかったのだ。

勝永はその時の記憶を脳内に映し出す。

「そして、私は今、嬉しいのです! 秀吉様の勇敢さ、知力、そして、真の姿である慈悲深さ……それを秀頼様は引き継ぎなされた! 淀様。どうか、秀頼様の言う通り勝重殿を豊臣家に引き入れましょう!」

後藤又兵衛がコウコウと笑いながら言う。

「おう! 賛成じゃ!」

また和やかな空気に戻り、賛成多数で織田家の罪を不問とし、板倉勝重を長宗我部盛親の与力になることが決定した。


すぐに勝重は解放され、涙を流して秀頼と盛親に感謝した。
その後はしばらくの間、豊臣家の一家臣として、長宗我部盛親に尽くしたのであった。

そして、大坂城地下牢。
そこには南光坊天海がいた。
彼は関ヶ原以降に徳川家康の参謀となり、大名や朝廷との交渉に当たっていた。

「ふふ、いい身分だな。彩女」

地下牢に灯る蝋燭に彩女の顔が映る。

「私が関ヶ原で戦死した"彼奴"に変わって育ててやったと言うに……飼い犬に手を噛まれるとはこのこと。お主は発情期の犬ぞ。秀頼如きに誑かされとはな」

彩女は苦笑いを浮かべる。

「犬ねぇ……」

そして、天海は淡々と話す。

「私は全て知っているぞ。話しても構わぬぞ。お主の出自や秀頼が知った剣。淀が知ればどうするか? 破滅こそが一の太刀の極意を知った者の宿命ということもな」

「全てか……それは興味深いね。アンタの愚痴聞いてやる。今ここで話しな」

続く
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