if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜

かまぼこのもと

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第八話

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彩女から問いにニヤニヤと笑いながら話し出す。

ーー反吐が出そうだよ

南光坊天海。
彼の出自はよくわかっていない。
足利義晴の子……正体は明智光秀などと言われている。
しかし、そんな彼ではあるが、高僧であることは事実であり、それ故に知識が豊富で礼儀作法も心得ており、朝廷との交渉など徳川家康を陰から支えてきた。
以上のことより彼は戦国時代における謎や都市伝説的なモノの真相を知っているのは事実であり、安国寺恵瓊同様に事情通であるからこそ、権力者に重宝されてきたのである。

そんな彼の言葉……彩女は興味なさそうなフリをしながら腕を組み俯きながら聞いていた。

「秀頼は誰の子か教えてやる。それはお主の師匠だ」

「……続けな」

天海は全てを話し始めた。

師匠であり、育ての父のことは覚えている。
正体を隠していたのか何通りもの名前はあるが、彩女は如何なる時も父上と呼んでいた。
彼の背は高く、数々の修羅場を見ていたのだろう。
たが、目は優しさと悪鬼のような迫力があった……その悪鬼のような雰囲気を持つ理由。彼は塚原卜伝の弟子の一人らしく、彩女と出会うまでは諸国を師と共に旅し、剣を教わっていた。
塚原卜伝亡き後は羽柴秀吉の配下となり、様々な戦で活躍し小牧長久手では秀次を守るため敵兵数十人も斬り伏せたと言われる。

秀次が死罪となると、彼はまた諸国を旅して彩女と出会う。

彼の剣は最短で鞘から飛び出し、その斬撃は見ることはできない。
しかも、正確に捉えることができる。
彩女は幼いながらにその剣に自分の人生にはない自由、そして、正確な所作から生まれる美しさに興味を持ち、父に教えを乞うた。

厳しさあったが、その剣の先には自身が求める美しさと自由があると信じていた。

しかし、ある日、流れが変わる。

「お主は知らぬであろう。秀頼の真の父。それはお主の育ての父でもある足利義輝であるぞ」

滑稽な話だ。
足利義輝はすでに亡くなっている。

「あの人が足利義輝だって? 馬鹿なことを……その時には、すでに亡くなってるだろ?」

「フン、殺された者は影武者ぞ。松永久秀を通じて本物は逃げたのだ。よく考えてみよ。足利義輝も秀頼も長身で美しい顔立ち。しかし、逆に秀吉はハゲネズミと呼ばれる。教えてほしいか? どのようにして、生まれたか?」

次の瞬間、天海は喉に違和感を覚えた。

ーーこ、声が……

彼の喉には刃が突き刺さっている。

そして、その刃の先には彩女がいる。

そう、彼女が天海を刺したのだ。
天海の言っていることが真実である根拠はない。
しかし、説得力はある……これが大衆に知られると、秀頼の命が危ない。
そして、混乱する豊臣家と権威が落ちた徳川家では戦国の世に戻ってしまう。

「お口が過ぎたようだね」

彩女はそう言って、刃を離す。

暗殺者として育て上げた存在……その男を眉一つ動かさずに正確、且つ美しい剣技で亡き者にした。
そして、その冷たい目。
その視線に温もりが宿るのは豊臣秀頼を見ているときだけだろう。

天海は嫉妬共に初めて彩女の持つ女としての美しさを認識した。


ーーこれ程にまで美しく成長するとは勿体ないことをした。野望などを捨て、この女と隠遁生活するべきだった

家康の参謀となり邪魔になりそうな存在を彩女を使い、消していった。
秀頼や家康が亡き後は自身が秀忠を操り、天下を動かすことも画策していた。
もしかすると、そんなことはせずに彩女と時代の中に消えていく方がよかったのかもしれない。

だが、彼に悔いはない。
愛おしい女に斬られるのだから。
天海は笑顔と共に意識を消していく。

彩女は一度ため息をして、呟く。

「おやすみ……もう一人の父上」

そして、彩女は上手く自殺として処理し、証拠を隠滅した。
板倉勝重、金地院崇伝、林羅山らに対して寛大な処置をしている秀頼が天海を死罪にすることはないだろう。
彩女は使命感から斬らねばならなかったのだ。
秀頼も淀君も薄々彩女が斬ったことに気づいていたのだろう。

淀君は「そうですか……」と納得するのみであった。
そして、秀頼は妻の一人である彩女を信頼しており、

ーー何か理由があったのだろう。

と、理解して頷くのみであった。

この世界線での秀忠は天海のことを良くは思ってはいない。
彼が穏和な父、家康の恐怖心を煽り大坂の陣を画策し、徳川の権威を落とすきっかけを作ったからである。

ーーようやく、自責に駆られたか。

秀忠は駿府の空を眺め、これからのことを考え始めていた。

数日後、天海自害事件を吹き飛ばすようなことが伝えられる。

「家康様が秀頼殿との会談を希望しております」

周囲にいた淀君や治長は周囲は凍りつく。

ーーどう出ますか?

近くにいた治長は秀頼の顔を汗を垂らしながら見つめる。

秀頼は笑顔で頷き、澄み切った声で答える。

「うむ! 私も祖父上と話がしたいと思っておった!」



続く
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