if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜

かまぼこのもと

文字の大きさ
12 / 13

第十二話

しおりを挟む
三日目。
徳川方の武将たちは大坂から姿を消していく。
仕方ないことだ。
ここで戦死者を増やせば、反乱が起こり
豊臣秀頼が覚醒し、柳生の剣豪数人を斬り伏せた上に柳生宗矩を討死させた。
しかも、時が経つにつれ大坂方の兵士は増えてゆく。

一方で徳川方は黒田長政、細川忠興などの武断派と恐れられていた武将は敗北を悟り、国へ逃げて帰っていく。

ーー仕方あるまい。

流れが完全に豊臣方に傾いている。


軍師的な役割を担う立花宗茂は他の大名のように逃げることはできずに次の日の配置について、諸将に指揮している。
藤堂高虎、本田忠朝などの猛将を失い、農兵たちが視界に映らない場所から攻撃してくる状況。
最早、全てが敵であり、何時死ぬかわからぬ地獄。
幕府軍に安息の場はない。
戦の経験が少ない徳川方の武将は顔を真っ青にして話を聞いている。
特に井伊、榊原などは先代から徳川に忠誠を誓っており領地を貰っており、彼らも今さら逃げることはできないのだ。

伊達政宗、水野勝成が彼らを必死に励ますが、精神がおかしくなり始めている。

ーー豊臣秀頼は生きながらにして、神仏に近い存在となった。

彼の剣技を見た者はその美しさから人々は神を見出している。

ーー家康様は神仏を怒らせてしもうた。


宗茂は秀忠と家康に話す。

「戦が始まりますれば、すぐにお逃げくださいませ。私めが家康殿となり、時間を稼ぎます」

家康は汗を流しながら言う。

「しかし……それでは……」

「鳥居元忠殿が命を賭して貴方様を守り抜きました。それと同様にございます。一度、退き、立て直し下さい。秀頼がいくら神仏扱いされようとも所詮は未熟な赤子も同然。すぐに家中が割れ、破滅に向かうでしょう」

家康は地面に伏せて号泣する。

「すまぬ! ワシが不甲斐ないばかりに……」

宗茂は家康の肩を優しく叩く。

ーーこれ程まで老いが……

家康の皮膚の柔らかさ、力のなさが宗茂に「家康は一介の老人となった」と認識させた。
これまで、旧勢力、公家や南蛮との見えない戦いを繰り返し、心身を擦り減らしていたことがわかる。
全てが振り出しになる戦……天下人となった家康はわかっていたはずだろう。
しかし、家康はこの敗戦で張り詰めていた糸が切られ一介の老人となってしまったのだ。

ーー哀れなものよ。

この老人を見つめ、慌てる秀忠……彼の目には"戦い"を感じられない。
政治家としては優秀なのだろうが、兵をまとめ上げ、勝利に向かわせる将ではない。
軍事においては家康と優秀な配下が全てを動かしており、何もできないのだ。

ーー情けないとは思わないが、この者達は、もはや、将の器ではない。

宗茂は彼らに哀れみを感じた。
しかし、全ては豊臣秀頼を舐めていた自身に責任がある。
真田後藤毛利があれほどの奮戦し、秀頼を担ぎ上げることに成功するとは思わなかった。
もし、それを察知していたのなら対策は立てること自体は容易だっただろう。
しかし、それをしなかった。


宗茂は夜空を見つめ、秀吉に話しかける。

ーー殿下。やはり、貴方様は偉大でした。私の負けにございます。

宗茂は死を覚悟して朝を迎えた。

結果、宗茂が予想した何倍も早く徳川方は崩れてしまう。

全ての策を先回りして潰されていく。

前線を指揮する真田信繁はある意味の恐怖を感じていた。

ーー秀頼様の言っていたこと……寸分の狂いもない。

秀頼は淀からの許可を得て、指揮をした。
彼の布陣は美しく完璧であった。
全てのことに理があり、反論すら受け付けることができない。
西国無双と呼ばれた立花宗茂を子供扱いしているのだ。

信繁、盛親は戦の経験は少ないものの、才能のみで徳川方を大坂の陣にて圧倒したが、彼はそれを超えるもの。

まさに、戦国の世が終わる前に現れた軍神。


恐ろしいのは全てを俯瞰して見渡す目。
そこから正確な計算ができる。

その能力、才能の前に経験は無力でしかなかった。
あっさりと後退し、伊達水野は京まで逃げ、宗茂は捕虜として拘束されてしまう。

ーー後悔はない。神仏に最も近い男と戦い、負けたのだ。如何なる死に方であっても幸せだ。

宗茂は今も牢の中で堂々と死を待っていた。

噂を聞いた島津、毛利、黒田、福島、細川などの主要な大名たちは国にたどり着くと、すぐに秀頼に降伏をする。

いつでも豊臣の世に戻せるであろう。

しかし、秀頼は天下は自分ではなく、徳川家康が治めるべきであり、自分を信じてついてきた人間の地位向上のみを考えていた。

家康は心身を病み、一人で立つこともできない状況。

「もうすぐ、夏であるな……」

彼は今の自分の置かれた現実を直視できない。
この一ヶ月で一気に老けてしまった。

政宗は亡き父のように慕っていた家康の衰えた姿を見て、胸が抉られるほどの痛みを感じていた。

秀頼は宗茂、勝茂、柳生の猛者、井伊直政が残した屈強な兵士たちすら、まともに戦闘にならない程の戦術を使ってくる。
思慮深くなった秀頼は京での戦は帝のことを考えて、起こしてはこないだろう。
しかし、紀伊を治める長宗我部、大和の片桐、河内や堺などを治める大谷、小出、後藤が先鋒となり、夏の陣で疲弊した畿内の侵攻を始めるだろう。

ーー今の世を守るために徳川家は豊臣家に降伏した上で秀頼に幕府軍側に立ってもらわねばならない。小牧長久手の殿下のように……

政宗の命を賭けた交渉が始まろうとしていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

マルチバース豊臣家の人々

かまぼこのもと
歴史・時代
1600年9月 後に天下人となる予定だった徳川家康は焦っていた。 ーーこんなはずちゃうやろ? それもそのはず、ある人物が生きていたことで時代は大きく変わるのであった。 果たして、この世界でも家康の天下となるのか!?  そして、豊臣家は生き残ることができるのか!?

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

生残の秀吉

Dr. CUTE
歴史・時代
秀吉が本能寺の変の知らせを受ける。秀吉は身の危険を感じ、急ぎ光秀を討つことを決意する。

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

If太平洋戦争        日本が懸命な判断をしていたら

みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら? 国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。 真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…分水嶺で下された「if」の決断。 破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦を描く架空戦記。 現在1945年夏まで執筆

対ソ戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。 前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。 未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!? 小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!

戦国終わらず ~家康、夏の陣で討死~

川野遥
歴史・時代
長きに渡る戦国時代も大坂・夏の陣をもって終わりを告げる …はずだった。 まさかの大逆転、豊臣勢が真田の活躍もありまさかの逆襲で徳川家康と秀忠を討ち果たし、大坂の陣の勝者に。果たして彼らは新たな秩序を作ることができるのか? 敗北した徳川勢も何とか巻き返しを図ろうとするが、徳川に臣従したはずの大名達が新たな野心を抱き始める。 文治系藩主は頼りなし? 暴れん坊藩主がまさかの活躍? 参考情報一切なし、全てゼロから切り開く戦国ifストーリーが始まる。 更新は週5~6予定です。 ※ノベルアップ+とカクヨムにも掲載しています。

処理中です...