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第十三話
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「秀頼様、伊達政宗殿がお会いしたいとのこと……」
警備に当たる武士がやって来て、秀頼に告げた。
「うむ! 伊達殿か? 一度会いたいと思っておったのだ。通せ」
秀頼の屈託ない声。
彩女と速水守久は彼の純朴さに警戒を促す。
「若、お気をつけくだされ。罠の可能性が」
一番最初に言葉にしたのは守久だ。
そして、彩女も言葉を発する。
「伊達の殿さん……甘くはないぞ」
伊達政宗……彼は周囲の人間から野心が強いと言われている。
豊臣と徳川を葬れる好機と考えてもおかしくはない。
秀頼をこの場で暗殺し、混乱に陥った大坂を徳川軍を使い攻めれば勝機はある。
殺害までいかなくとも、片桐且元、速水守久、薄田兼相を亡き者にして秀頼を逃げ帰らせれば一気に戦況は変わる。
徳川家康から逃げたという事実が各大名に知れ渡り、徳川方に味方する者が現れることは間違いない。
成功すれば政宗の徳川政権下での発言力は増すだろう。
そして、廃人状態の家康や逃走し戦に怯え守りを固める秀忠に取って代わることも不可能ではない。
秀頼以外の人間が抱く政宗への拒否感。
だが、彼と対面した武士が反論した。
「……しかし、伊達政宗殿を突き返すのは」
武士が言葉に詰まる。
彼もまた一兵卒として何度も死線を超え、大坂夏の陣において豊臣方の勝利に貢献し、豊臣家のために尽くしてきた男であり守久が警備要員として選んだ。
ーー何かあるはずだ。
守久は自身の持つ考えの方向性を変えた。
「しかし、若や其方が言うならば……会ってみるのも悪くないだろう。お主にワシ、彩女、且元殿は若の近くにいるのだ。兼相は30人ほどの兵を率い、怪しい動きがないか、周囲の確認を……」
彼の言葉に周囲の人間は頷き、持ち場に向かう。
しばらくすると、
「伊達政宗殿がいらっしゃいました!」
という、配下の声が聞こえてくる。
そして、やってきた政宗の姿に周囲は驚く。
ーー白装束だと!?
政宗は死を覚悟した白装束で現れた。
ーー小田原と同じ姿ではないか?
そして、政宗は秀頼に頭を下げて謝罪する。
「殿下のご子息に刃を向けたこと……死をもって償いとうございます」
秀頼は政宗のところまで歩いて行き、彼と目線を合わせて言う。
「政宗殿、其方に償う罪はない」
優しい微笑みである。
ーー誠に殿下の子であるか?
政宗は視線を戸惑いを見せた。
人の命を軽視した残虐な君主・秀吉。
「伊達殿……私が憎いか?」
「滅相もございません。此度の戦、家康様を囃し立てたのは私でございます。家康様に媚を売り更なる領土の拡大を得て、もう一度、戦国の世に……」
「もう良い。私と目を合わし、正直に気持ちを話せ」
秀頼が微笑みを崩さないまま、政宗の言葉を遮るかのように話した。
ーー全ての嘘を見破っておるのか。
政宗は顔を上げ、秀頼と微笑み合った。
ーー小田原の時とは違う。あの時は頭を上げることを許されなかった。殿下から首を鞭で打たれ、何度も脅迫された。
秀頼の口が開く。
「戦国の世に戻そうという言葉……真意であるか?」
政宗は笑みを浮かべたまま話し出す。
「戦国の世……斯様なもの馬糞にも劣ります」
場の空気が凍りつく。
ーー此奴が戦なき世を求めていた? 野心の塊であると噂されていたが……
片桐且元が割って入る。
「話してくれぬか? 秀頼様は殿下とは違う。理を話せば全て許すであろう。万が一許さねば、私も腹を切ろう」
政宗は頷く。
「私は戦で尊敬する父を失い、兄弟とも母親とも争いました。戦などなければ誰も死なず、離れることもなかった。そして、此度の戦でも小十郎やたくさんの重臣たちを失いました。戦いの最中でありがらも……私は何のために戦っているのか……自身を問うてました……しかし、その答えはなく……いや、答えはある。戦をなくすには全ての責ととも私がいなくなれば……」
秀頼が言葉を遮り、否定する。
「否、いなくなっては困る。お主には何の罪もない。私が勝ってしまったことで世は狂い始めておるのだ。贖罪したいのであれば、至急治める地に戻り、今まで以上、民に尽くせ。政宗殿は不問に致す。所領安堵するように家康殿に頼むのでな。安心致せ。引き続き、頼んだぞ」
政宗は涙を流した。
ーー私が勝てる者ではなかった。器のみなら殿下を超えている……
「私も政宗殿と同じように戦など、いらぬと思っておる。私たちは気が合いそうだ……着替えて来るがいい。話がしとうなった。このまま朝まで語ろうぞ。皆、酒、肴を持って参れ! 金なら爺が出してくれる! 金をばら撒き、京にいて、今から動ける人間を呼んで参れ」
秀頼は政宗が全てを吐き出し、柳生宗矩と同様に自分と向き合ってくれたことに感謝した。
彼の言葉に彩女が苦笑いとため息を吐き出し呟く。
ーーったく、何やってんだか……ウチの旦那の行動は解せないわ……だが、それがいいんだよな
彼女は立ち上がり、酒宴の準備を手伝った。
「畏まりました! この政宗の話で宜しければ朝まで話しましょうぞ」
秀頼は有り金を近隣の住民にばら撒き、酒などを彼らに振舞った。
朝まで祭りのような状況で京の人々は豊臣と伊達、両家の和解を喜んだ。
「重成殿と真田大助が近くにおるのですが、お呼びしますか?」
兼相が秀頼に尋ねる。
しかし、
「私のわがままで来てもらったのだ。ゆっくり休んでほしい……」
秀頼は笑みを浮かべて、彼らを気遣った。
ゆっくりと夜はふけていく。
木々に邪魔され、星々の白い光が差さない漆黒の闇。
その中で、ひっそりとした声が聞こえてくる。
「政宗は阿保だな。秀頼なんぞに誑かされよって。豊臣などに媚を売りよって」
水野勝成の言葉が暗闇の中で蝋燭のようにゆらりと灯り出し、周囲にいる兵士たちを映し出した。
「勝成様……私が秀頼を仕留めます」
宮本武蔵が狂気の笑みを浮かべる。
「左様か……奴は柳生宗矩を一瞬で葬った剣の使い手ぞ」
彼は勝成からの言葉に「ふふっ」と微笑みながら答える。
「気遣い無用。お任せあれ」
水野勝成……彼は独自の戦術で関ヶ原では西軍に打撃を与え、大坂の陣では豊臣方を大いに苦しめた。
そして、今、彼は秀頼を暗殺するために1000人の兵士と共に豊臣一行を襲撃しようと待ち構えていた。
警備に当たる武士がやって来て、秀頼に告げた。
「うむ! 伊達殿か? 一度会いたいと思っておったのだ。通せ」
秀頼の屈託ない声。
彩女と速水守久は彼の純朴さに警戒を促す。
「若、お気をつけくだされ。罠の可能性が」
一番最初に言葉にしたのは守久だ。
そして、彩女も言葉を発する。
「伊達の殿さん……甘くはないぞ」
伊達政宗……彼は周囲の人間から野心が強いと言われている。
豊臣と徳川を葬れる好機と考えてもおかしくはない。
秀頼をこの場で暗殺し、混乱に陥った大坂を徳川軍を使い攻めれば勝機はある。
殺害までいかなくとも、片桐且元、速水守久、薄田兼相を亡き者にして秀頼を逃げ帰らせれば一気に戦況は変わる。
徳川家康から逃げたという事実が各大名に知れ渡り、徳川方に味方する者が現れることは間違いない。
成功すれば政宗の徳川政権下での発言力は増すだろう。
そして、廃人状態の家康や逃走し戦に怯え守りを固める秀忠に取って代わることも不可能ではない。
秀頼以外の人間が抱く政宗への拒否感。
だが、彼と対面した武士が反論した。
「……しかし、伊達政宗殿を突き返すのは」
武士が言葉に詰まる。
彼もまた一兵卒として何度も死線を超え、大坂夏の陣において豊臣方の勝利に貢献し、豊臣家のために尽くしてきた男であり守久が警備要員として選んだ。
ーー何かあるはずだ。
守久は自身の持つ考えの方向性を変えた。
「しかし、若や其方が言うならば……会ってみるのも悪くないだろう。お主にワシ、彩女、且元殿は若の近くにいるのだ。兼相は30人ほどの兵を率い、怪しい動きがないか、周囲の確認を……」
彼の言葉に周囲の人間は頷き、持ち場に向かう。
しばらくすると、
「伊達政宗殿がいらっしゃいました!」
という、配下の声が聞こえてくる。
そして、やってきた政宗の姿に周囲は驚く。
ーー白装束だと!?
政宗は死を覚悟した白装束で現れた。
ーー小田原と同じ姿ではないか?
そして、政宗は秀頼に頭を下げて謝罪する。
「殿下のご子息に刃を向けたこと……死をもって償いとうございます」
秀頼は政宗のところまで歩いて行き、彼と目線を合わせて言う。
「政宗殿、其方に償う罪はない」
優しい微笑みである。
ーー誠に殿下の子であるか?
政宗は視線を戸惑いを見せた。
人の命を軽視した残虐な君主・秀吉。
「伊達殿……私が憎いか?」
「滅相もございません。此度の戦、家康様を囃し立てたのは私でございます。家康様に媚を売り更なる領土の拡大を得て、もう一度、戦国の世に……」
「もう良い。私と目を合わし、正直に気持ちを話せ」
秀頼が微笑みを崩さないまま、政宗の言葉を遮るかのように話した。
ーー全ての嘘を見破っておるのか。
政宗は顔を上げ、秀頼と微笑み合った。
ーー小田原の時とは違う。あの時は頭を上げることを許されなかった。殿下から首を鞭で打たれ、何度も脅迫された。
秀頼の口が開く。
「戦国の世に戻そうという言葉……真意であるか?」
政宗は笑みを浮かべたまま話し出す。
「戦国の世……斯様なもの馬糞にも劣ります」
場の空気が凍りつく。
ーー此奴が戦なき世を求めていた? 野心の塊であると噂されていたが……
片桐且元が割って入る。
「話してくれぬか? 秀頼様は殿下とは違う。理を話せば全て許すであろう。万が一許さねば、私も腹を切ろう」
政宗は頷く。
「私は戦で尊敬する父を失い、兄弟とも母親とも争いました。戦などなければ誰も死なず、離れることもなかった。そして、此度の戦でも小十郎やたくさんの重臣たちを失いました。戦いの最中でありがらも……私は何のために戦っているのか……自身を問うてました……しかし、その答えはなく……いや、答えはある。戦をなくすには全ての責ととも私がいなくなれば……」
秀頼が言葉を遮り、否定する。
「否、いなくなっては困る。お主には何の罪もない。私が勝ってしまったことで世は狂い始めておるのだ。贖罪したいのであれば、至急治める地に戻り、今まで以上、民に尽くせ。政宗殿は不問に致す。所領安堵するように家康殿に頼むのでな。安心致せ。引き続き、頼んだぞ」
政宗は涙を流した。
ーー私が勝てる者ではなかった。器のみなら殿下を超えている……
「私も政宗殿と同じように戦など、いらぬと思っておる。私たちは気が合いそうだ……着替えて来るがいい。話がしとうなった。このまま朝まで語ろうぞ。皆、酒、肴を持って参れ! 金なら爺が出してくれる! 金をばら撒き、京にいて、今から動ける人間を呼んで参れ」
秀頼は政宗が全てを吐き出し、柳生宗矩と同様に自分と向き合ってくれたことに感謝した。
彼の言葉に彩女が苦笑いとため息を吐き出し呟く。
ーーったく、何やってんだか……ウチの旦那の行動は解せないわ……だが、それがいいんだよな
彼女は立ち上がり、酒宴の準備を手伝った。
「畏まりました! この政宗の話で宜しければ朝まで話しましょうぞ」
秀頼は有り金を近隣の住民にばら撒き、酒などを彼らに振舞った。
朝まで祭りのような状況で京の人々は豊臣と伊達、両家の和解を喜んだ。
「重成殿と真田大助が近くにおるのですが、お呼びしますか?」
兼相が秀頼に尋ねる。
しかし、
「私のわがままで来てもらったのだ。ゆっくり休んでほしい……」
秀頼は笑みを浮かべて、彼らを気遣った。
ゆっくりと夜はふけていく。
木々に邪魔され、星々の白い光が差さない漆黒の闇。
その中で、ひっそりとした声が聞こえてくる。
「政宗は阿保だな。秀頼なんぞに誑かされよって。豊臣などに媚を売りよって」
水野勝成の言葉が暗闇の中で蝋燭のようにゆらりと灯り出し、周囲にいる兵士たちを映し出した。
「勝成様……私が秀頼を仕留めます」
宮本武蔵が狂気の笑みを浮かべる。
「左様か……奴は柳生宗矩を一瞬で葬った剣の使い手ぞ」
彼は勝成からの言葉に「ふふっ」と微笑みながら答える。
「気遣い無用。お任せあれ」
水野勝成……彼は独自の戦術で関ヶ原では西軍に打撃を与え、大坂の陣では豊臣方を大いに苦しめた。
そして、今、彼は秀頼を暗殺するために1000人の兵士と共に豊臣一行を襲撃しようと待ち構えていた。
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