マルチバース豊臣家の人々

かまぼこのもと

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第十四話 暗闘

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1597年
五大老、五奉行たちと各地の大名たちを呼び寄せて、国の検知報告などを議題に話し合う評定が行われた。

秀吉は真剣な表情で側にいた家康に話しかける。

「して、信長様は何とおっしゃっておる?」
秀吉の言葉に全員が凍りつく。

ーー織田信長はすでにいない。

そこにいたすべての人が思った。

秀吉の認知症は始まっているのだと。
それだけではない。

秀吉をフォローしようとした秀長が咳き込み、言葉が出ない。

ここにいた全員が思う。

ーー豊臣の世は終わった。

後継者である秀次は帝への敬意を感じさせない行動により、失脚。
秀頼は幼い。

後を継ぐ人間がいない。

側にいる家康が優しく秀吉の言葉を翻訳して、全員に伝えた。

ーー次は内府殿か。

そう思われても仕方ない。

豊臣家の崩壊。

城内で大笑いする秀秋。
彼にとっては気分爽快だろう。
秀吉や北政所、淀には疎まれ、後継者争いから脱落。
豊臣家など大嫌いなのである。

秀秋は同じ小早川にいる秀包に話しかける。

「見たかよ!? 殿下、終わりであるな!
これからは内府様の時代だ! 宗茂、信親連れて内府様のもとに行こうぜ!」

秀包は彼を軽蔑した笑みを浮かべ、

「お静かに」

と諭し、その場を去った。
目には怒りを込め、刀で目の前にある岩を真っ二つに斬った。

ーーよう耐えたな。秀包。

秀包はハッとして前を見る。
すると、彼の父である元就がいた。

「さすが、我が子よ……しかし、豊家は彼奴が言うように終わりだ。して、お主はどうする?」

「私がその崩壊を止めます」

「ふふ、面白い。それでこそ、我が子よ。お主はワシと共にある……助けてやろうぞ」

秀包の中にいる元就が消えていく。

ーー父上、共にもう一人の父である殿下をお守りしましょう。

秀包を離れたところから見つめる影。

ーー秀包、ついに本格的に出始めたか……毛利元就の人格が……そして、お前の中にある修羅を呼び覚ませ……

長宗我部信親が秀包を見つめている。

ーー氷見原と戸次川で見せたあの強さ。もう一度見れると思うと胸が躍る。

信親は笑みを浮かべ去っていく。

その頃、豊臣秀長は……

彼は半兵衛の前で喀血し、畳を赤く染めていく。
「大丈夫ですか? 誰か、医師を早急に!」
半兵衛が彼を心配すると、秀長が微笑みながら言う。
「構うな……もはや、長くはないこと……自分が一番わかっておる……」

彼は脂汗を掻きながら、息を荒げて言う。

「ワシが死ねば……豊臣家は終わりじゃ。1日でも……長く……」

そう言うと、秀長は気を失い倒れた。

そして、その情報は数日で徳川家臣団にも伝わった。
表向きは豊臣家の心配をするが、家康のいないところでは嬉しさを堪えきれずにいた。

「一枚岩にヒビが入りましたな」

天海がボソッと話すと、正信がため息と微笑みが混じった吐息を出す。

「左様で……そのヒビを如何に大きくさせるか……」
正信がそう言うと、天海は
「直政、忠勝、康政……この三人が好まぬやり方でありますが、黒田親子は向こうから我々と接触しており、味方を増やしております」
と話し出した。
確かに彼らは豊臣秀吉から官位をもらい、忠勝の生死に関する調査をするよう半兵衛から言われても「生きていても良い」と秀吉は答えていた。
それ故に彼らは秀吉にも義理があり、彼が生きている間は事を起こすなど論外である。

ーー何事も準備は必要。

天海は黒田親子を使い、加藤清正や福島正則、浅野幸長の調略を開始している。

正則や清正の二人は口では勇ましく

「豊家のために尽くすつもりよ!」

とは言っているが、腹の中は違う。
我が家が一番かわいい。

ーー次の勝ち馬に乗りたい

そう思うのは当然だ。
自分の家を残すのが戦国時代において第一。
石田三成や小早川秀包、大谷吉継のような考えが異常なのである。

黒田長政からの調略に清正と正則は前向きである。
「ほ、豊家は大切ではあるが……まぁ内府殿のような律儀なお方が秀頼様を蔑ろにするわけはないだろう。なぁ? 正則」

「そ、そうじゃ。内府殿はのぅ……幸長?」

浅野幸長は立ち上がり去っていく。

「聞かなかったことにします」

この世界線では秀吉に重宝されている浅野親子。
幸長は全てを悟っている。


ーーさすがに無理であるか……しかしながら、奴が三成側に転ぶこともないだろう。中立となるはずだ。

長政は悩むが、

ーー東北の最上義光はこちらに靡くだろう。


と気を取りなおす……しかし、予想外のことが起こる。

義光の代わりに評定参加している志村光安の家臣が大騒ぎしている。

「何だ?」

光安が門に向かうと、老人に扮した直経が駒姫を襲った男たちを捕らえていた。

「やーやー志村光安殿ですかな? この者たちが話したいことがあるそうで……ほれ、言ってみい」

男の一人が
「我々は駒姫を亡き者にしようとしました!」
と叫ぶと直経は笑顔のまま、もう一人の男の顔面を蹴りながら言う。
「誰の使いかな?」

「吉川広家様でございます。内府様が駒姫を斬り、殿下と最上を切り離せと」

直経はニコニコ笑ったまま光安に言う。

「まぁ自白もしましたので、寛大な処置をお願いします……ではでは……」

直経はそのまま去っていく。

ーーあの老人……殺意の塊でしかない。おそらく、豊臣家の忍びであろうが……まだあのような者がいるとは……

光安は直経に一抹の恐怖を感じるが、我に帰って言う。

「詳しく話を聞こう」


伏見城にいる淀。

「ついに、直経が接触しましたか?」
直経配下の忍びの一人が頷く。
淀が微笑み、立ち上がる。
「時は来ました。直経、赤尾伊豆守、宮部継潤……そして、平兵衛を早急に集めてください」

続く。


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