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3話 生贄花嫁と雷龍
しおりを挟む『細女の血族のある地で死人が1番多い翌年は雷龍が命尽きて滅びる時』
『すなわちその地に雷龍の加護が無くなった翌年、また新しい雷龍の子孫が必ず天鈿女命の末裔の娘を嫁にもらいに来るものとする』
確かに蔵にある書物には先祖が書いた絵と共にそう記述があったと言う。
そして今日は深子が雷龍に嫁ぐ日になった。
「じゃあ、しっかりこの子を連れてって」
舞華は屋敷の下男にそう命令した。
この事は街の皆は知らない。
知るのはお尚と屋敷の人間だけだ。
「花嫁道中なんかしたら、私がどこかに嫁いだって街の人達に思われるじゃない」
だからそんな事しなくていいわよと舞華から言われて深子は屋敷の下男に昼過ぎに連れられると古着屋でもらったのか分からない古い白無垢を持たされ、人目につかない道を通り、書物に書いてあった滝の側まで来た。
「悪く思うなよ!」
隠れて白無垢に着替えた深子の片足を大きな石に縄で縛ると下男はそれだけ言うと屋敷に戻って行った。
(思わない)
下男は根は悪い人じゃないのを深子は知っている。
(私は結局、家族じゃなかった)
それは小さい頃から割り切っていたつもりだった。
でも、こんな真似はさせないだろうと思ったらこのザマだ。
もう家族という絆で彼らに期待はできないし、しない。
(でも私は天鈿女命の末裔よね?)
今、それを咎める者は誰一人としていない。
(舞は今、足を縛られてるから舞えない)
ならばーー!
と深子は使える手を動かし、久しく出してない喉を震わせ、恋の唄を唄う。
「恋、恋ひて美しき言葉語りかけてよ。
二人の仲を永く思わば」
恋の唄を唄いながら舞う舞華の見よう見まねだ。
(舞華みたいには舞えないけど、せめて雷龍が来るまでは私は自由よ!)
不思議と今後身に起こる事を考えると恐ろしい!
もしかしたら生贄みたいに喰われるかもしれない。
(だから今だけーー!)
誰に見せる訳でもないけれど深子は舞う。
まるで花婿に呼びかけるように手を伸ばし持っていない羽衣を舞華の振り付けを思い出しながら羽衣を顔の前から頭の上に上げて片足を前に出して跳ねる振り付けようとするがそれは縄の長さが足りなくて動きを止められそれはできない。
「ーーっ!」
現実に引き戻されそうになる。
だけどーー。
(せめて雷龍が来るまでーー!)
何度も同じ婚礼の舞や唄を深子は唄う。
そんな姿を龍は見逃さなかった。
すると深子がいた静かな滝の空気は一変、風が吹き付けて変わった。
(雷龍!)
雷龍が来るのだ。
(ーーやっぱり、私は「こう」なるのだわ)
現実は変えられない事を深子は思い知った。
(一度でいいから私も踊ってみたかった)
ーー愛するたった1人の前でーー。
足を縛られ叶わない今、目を開くと深子の瞳には巨大な龍の影を捉える。
(ーー私も、最愛の人の為に舞ってみたい!!)
願うと同時、地が唸るような声で雷龍喋った。
「そなたが細女の末裔か?」
「あ・・・・・・」
目の前の雷龍は深子の目には巨大な化け物みたいに
見える。
(私は末裔・・・・・・末裔なのに!)
さっきまでそれをいい事に舞っていたのに頷いたら喰われると思って下を向きガタガタ震える事しかできない。
「そう怖がるな。とって喰ったりなんかしない」
「え?」
(喰われなくていいの?)
と命の危機を前にして珍しく顔に出たのだろう。
しかし雷龍の様子はおかしい。
「そなた、何だその足の縄は!?」
まるで生贄ではないか!?と雷龍は騒ぎ立てる。
「あ・・・、はい」
ここまでされると思わなかったけど、確かに普通の娘なら縛らなければ逃げ出すだろう。
(縛られなかったらそれも考えたけどすぐ街の人にバレちゃうわ)
山の麓にいた寺のお尚だって深子の顔を一応は知っている。
(だって帰る場所は私にはない)
龍に何も返せずにいると雷龍は
「待っていろ。今縄を爪先で切ってやる。
少しでも動くとそなたを傷付けるからジッとしていてくれよ」
その言葉を深子は信じられない気持ちで聞いた。
(雷龍だからってとても恐ろしい化け物だって思っていたけど)
だけどこの龍はなんというか、とても人間深がある。
(いえ。龍じゃなくて「人」だわ)
「いいか。ジッとしててくれ」
雷龍の言う通り深子はギュッと目を瞑ると龍は前の爪先で彼女の足の縄を切った。
「ありがとうございます」
「いや、そなたが無事で何よりだ」
話をすればするほど龍は人みたいだ。
「まあ、私の先祖がこんな場所を指定したのが悪い。
そなたの名は?」
「細女 深子と申します」
「では、深子。
とにかく場所を変えよう」
雷龍なのにその声掛けは深子にはとても優しく紳士的に聞こえた。
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