【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。

東野あさひ

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第20話 #恋のはじまり方

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 月曜の放課後。
 教室の窓から射す夕陽が、机の端を黄金色に染めていた。
 廊下のざわめきが遠くで途切れ、
 ふとした静けさの中に、心臓の音だけがやけに響く。

 あの日――つまり“恋がバレた日”から、三日。
 俺とひよりの距離は、妙に近くて、妙に遠い。
 話すときは普通だし、周りの誤解ももうネタ化してる。
 けど、目が合うと、どうしても胸が騒ぐ。

 「誤解のくせに、やけに本物っぽいんだよな……」

「蒼汰くん、これ見てください」
 ひよりがスケッチブックを差し出す。
 開いたページには、屋上の二人――俺とひより。
 風の中で名前を呼び合っている構図。

「……また描いたのか」
「はい。
 “誤解のはじまり方”の次は、“恋のはじまり方”を描こうと思って」
「タイトルつけてんのか」
「ええ。作品として、です」
「……なるほど、芸術家は照れを昇華できていいな」
「照れ、してるんですね?」
「ちげぇよ」
「今の、“ちげぇよ”が照れ隠しのテンプレです」
「解説すんな!」

 笑いながら、ひよりの目が一瞬だけ柔らかくなった。

 放課後、校舎裏。
 空が茜から群青に変わるころ、
 俺はスマホを開いてStarChatを立ち上げた。

 投稿画面を開く。
 指が震える。
 “誤解”を生んできたこのアプリで、
 初めて“自分の意思で”投稿する。

【真嶋蒼汰@2-B】
「誤解でもいい。
本当は、ずっと君が気になってた。」

 ――送信。

 画面が光り、数秒後には通知が鳴り止まなかった。

───────────────────────
StarChat #恋のはじまり方
【校内ウォッチ】
「真嶋、ついに本音投稿!?」
コメント:
・「#誤解でもいいって最強」
・「#好きが確定した瞬間」
───────────────────────

「……バズったな」
 呟いた瞬間、背後から声がした。
「見てました」
「うわっ、七瀬!?」
「“誤解でもいい”って、優しい言葉ですね」
「お前、どこから聞いてた」
「“送信”の音からです」
「リアルタイムかよ」

 ひよりが、ふっと笑った。
「でも、嬉しかったです」
「え?」
「“誤解でもいい”って言ってもらえたの、私にとって“本当”でしたから」

 その言葉に、息が止まった。
 ――ひよりが、少しだけ泣きそうに笑ってた。

 夜。
 StarChatの通知がまた光る。
 トレンド1位は、やっぱりあのタグだった。

───────────────────────
StarChat #恋のはじまり方
【桜井先生@担任】
「恋は、誤解の延長線上にある“理解”である。
 理解する努力をやめたとき、それはただの噂になる。」
コメント:
・「#先生、恋愛哲学家」
・「#理解されたい恋」
───────────────────────

 画面を閉じながら、俺は思う。
 “誤解”が、ようやく“始まり”に変わった気がした。
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