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1章
3話「“無能”の力に、怯える者たち」
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私は、その夜もほとんど眠れなかった。
布団に横になっても、魔導生物の気配が体の芯にこびりついて離れなかったし、何より――兵士たちの“沈黙”が気にかかっていた。
(恐れてる……私のことを)
誰も口に出さない。けれど分かる。今の私を、彼らは「仲間」として見ていない。
あの場で確かに魔導生物を討った。砦を守った。だけどそれと同時に、“異質な存在”として線を引かれた。
(やっぱり……どこに行っても、私は“異端”のままなのかしら)
そんな思考に沈んでいた時、扉がノックされた。
「入るぞ」
カイラス・ヴァルドレン司令官。彼の声はいつも通り低く、感情を抑えていた。
「問題ないか?」
「ええ……なんとか、生きてます」
「“生きてる”なら十分だ。お前が死んでいたら、この砦も終わっていた」
それは、最上級の褒め言葉だった。
彼の口から出た「称賛」に、私は少し戸惑ってしまう。
「……周りの反応、見ました?」
「見た」
カイラスはため息混じりに言った。
「兵はお前を恐れてる。理解できない力ってのは、そういうもんだ。俺も……お前の魔術には、正直驚いた」
私は、沈黙したまま彼を見つめた。
(この人も――私を“異端”だと思ってる?)
けれど、彼は続けた。
「だが、俺は指揮官だ。味方の“実力”を測り、配置するのが仕事だ。……お前は、ここに必要だ」
胸の奥で何かが崩れる音がした。
重ねられた冷たい評価の層が、一枚だけ剥がれ落ちたような感覚。
「ありがとう……ございます」
「礼はいい。明日、視察官が来る」
「……王都から、ですか?」
「ああ。術士団の監視官。名前はゼラード・シュミット。お前の力を“王都の目”がどう見るか、俺にもわからん」
王都――また、あの場所の名前を聞くだけで、吐き気がした。
「でも、私はもうあの頃の“ノクティア”じゃありません。試されるなら、受けて立つわ」
「そうか」
カイラスは静かに頷いた。
その背中が廊下に消えた後、私はベッドに再び横になった。
――次は、“王都そのもの”との対峙だ。
翌朝、砦はいつにも増して緊張していた。
ざわつく空気の中、私は兵士たちの視線を感じながら正門前に立った。
(あの人も来てる……本当に)
やがて、黒い外套をまとった男が馬を駆って現れた。
ゼラード・シュミット。
王都術士団における“粛清担当”と噂される男。
整った顔立ちに冷たい目、口元には微笑を貼りつけたまま近づいてくる。
「お久しぶりですね、ノクティア嬢。……いや、“辺境の魔女”とでもお呼びすべきでしょうか?」
「あなたが視察官? 随分と優雅な言葉遣いね。粛清のつもりで来たなら、早い段階で失望させてあげるわ」
「はは……やはり変わらないですね。口は達者だ。だが、私は“結果”を見に来ただけですよ。あなたがどこまで“制御”できているか」
カイラスが一歩前に出る。
「この砦では、俺の指揮が優先される。無断でノクティアに干渉することは許可しない」
「もちろん、規則は守りますとも。ただし、もし暴走の兆候があれば……処置権限は私にあります。それも王都の“直命”ですので」
冷ややかな空気が流れた。
私はゼラードの顔を睨み返しながら、はっきりと言った。
「だったら、私が“危険じゃない”と、あなたに分からせてあげる」
「楽しみにしてますよ、ノクティア嬢」
その目は、笑っていなかった。
彼は、真剣に私を――“敵”として見ている。
次の戦いは、魔物ではなく、人。
言葉と立場と力をぶつけ合う、“王都”との攻防が始まる。
布団に横になっても、魔導生物の気配が体の芯にこびりついて離れなかったし、何より――兵士たちの“沈黙”が気にかかっていた。
(恐れてる……私のことを)
誰も口に出さない。けれど分かる。今の私を、彼らは「仲間」として見ていない。
あの場で確かに魔導生物を討った。砦を守った。だけどそれと同時に、“異質な存在”として線を引かれた。
(やっぱり……どこに行っても、私は“異端”のままなのかしら)
そんな思考に沈んでいた時、扉がノックされた。
「入るぞ」
カイラス・ヴァルドレン司令官。彼の声はいつも通り低く、感情を抑えていた。
「問題ないか?」
「ええ……なんとか、生きてます」
「“生きてる”なら十分だ。お前が死んでいたら、この砦も終わっていた」
それは、最上級の褒め言葉だった。
彼の口から出た「称賛」に、私は少し戸惑ってしまう。
「……周りの反応、見ました?」
「見た」
カイラスはため息混じりに言った。
「兵はお前を恐れてる。理解できない力ってのは、そういうもんだ。俺も……お前の魔術には、正直驚いた」
私は、沈黙したまま彼を見つめた。
(この人も――私を“異端”だと思ってる?)
けれど、彼は続けた。
「だが、俺は指揮官だ。味方の“実力”を測り、配置するのが仕事だ。……お前は、ここに必要だ」
胸の奥で何かが崩れる音がした。
重ねられた冷たい評価の層が、一枚だけ剥がれ落ちたような感覚。
「ありがとう……ございます」
「礼はいい。明日、視察官が来る」
「……王都から、ですか?」
「ああ。術士団の監視官。名前はゼラード・シュミット。お前の力を“王都の目”がどう見るか、俺にもわからん」
王都――また、あの場所の名前を聞くだけで、吐き気がした。
「でも、私はもうあの頃の“ノクティア”じゃありません。試されるなら、受けて立つわ」
「そうか」
カイラスは静かに頷いた。
その背中が廊下に消えた後、私はベッドに再び横になった。
――次は、“王都そのもの”との対峙だ。
翌朝、砦はいつにも増して緊張していた。
ざわつく空気の中、私は兵士たちの視線を感じながら正門前に立った。
(あの人も来てる……本当に)
やがて、黒い外套をまとった男が馬を駆って現れた。
ゼラード・シュミット。
王都術士団における“粛清担当”と噂される男。
整った顔立ちに冷たい目、口元には微笑を貼りつけたまま近づいてくる。
「お久しぶりですね、ノクティア嬢。……いや、“辺境の魔女”とでもお呼びすべきでしょうか?」
「あなたが視察官? 随分と優雅な言葉遣いね。粛清のつもりで来たなら、早い段階で失望させてあげるわ」
「はは……やはり変わらないですね。口は達者だ。だが、私は“結果”を見に来ただけですよ。あなたがどこまで“制御”できているか」
カイラスが一歩前に出る。
「この砦では、俺の指揮が優先される。無断でノクティアに干渉することは許可しない」
「もちろん、規則は守りますとも。ただし、もし暴走の兆候があれば……処置権限は私にあります。それも王都の“直命”ですので」
冷ややかな空気が流れた。
私はゼラードの顔を睨み返しながら、はっきりと言った。
「だったら、私が“危険じゃない”と、あなたに分からせてあげる」
「楽しみにしてますよ、ノクティア嬢」
その目は、笑っていなかった。
彼は、真剣に私を――“敵”として見ている。
次の戦いは、魔物ではなく、人。
言葉と立場と力をぶつけ合う、“王都”との攻防が始まる。
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