【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ

文字の大きさ
4 / 107
1章

4話「王都の目、辺境を測る」

しおりを挟む
 ゼラード・シュミットは、終始笑みを浮かべたまま私を見つめていた。だがその目は冷たい。目の前の人間を“実験体”としてしか見ていない者の目だ。

 「さて、早速ですが評価試験に入りましょうか。無論、拒否することもできますが……その場合、王都にお戻りいただく手続きとなります」

 「脅しのつもり? それとも、嫌がらせ?」

 「どちらでもありません。あくまで公式の“査定”です。何しろ、貴女のような“異質な魔術”の保持者が、王国軍の戦力として適格か否かを見極めるのが私の役目ですから」

 私は肩をすくめ、ため息をついた。

 「いいわ。受けて立つ。……だけど、後悔しないで」

 ゼラードはにっこりと笑う。

 「恐れ入ります」



 午後、砦の訓練場は臨時封鎖され、視察官立ち合いの“魔術制御試験”が実施された。
 集まった兵士たちは、私を恐れるような、あるいは興味深そうな目で見つめている。

 「制御試験では三種の術式を披露していただきます。魔力圧縮、対象指定、範囲干渉。順にどうぞ」

 ゼラードは、まるで誰かに授業をしているかのように淡々と告げる。

 「……最初は、魔力圧縮ね」

 私は深呼吸し、手をかざした。小規模な圧縮で十分。それ以上やると、場が壊れる。

 「《封式・双重結界》」

 空間が微かに揺れ、中心部に青白い光球が出現する。内包された魔力は、通常の術士では制御できないほど密度が高い。

 兵士たちがざわめいた。だが私は、すぐに術式を解除する。

 「次。対象指定」

 ゼラードが頷くと、訓練用の木人形が出された。複雑に組まれた強化結界が施されている、模擬戦用の標準型だ。

 私は杖も詠唱も使わずに指を鳴らした。

 「《穿ちの理式、第十二式》」

 瞬間、木人形の胸部にだけ小さな穴が開き、そこから内部の魔力核が無力化される。木人形は、音もなく崩れ落ちた。

 「……」

 ゼラードは無言で、魔導板に記録を取っている。

 「最後。範囲干渉」

 「指定エリアはこの標的区域。半径二十メートル以内で“魔力の流れ”を固定してみてください」

 ゼラードの口調がわずかに鋭くなる。これが本命か。

 私は足元の土を指先でなぞり、古代語を一語、紡いだ。

 「《律動封陣・セフィラ・ラグナレウム》」

 静かに、魔力が地面を走り、広がる。魔素の流れが、ぴたりと静止したように見えた刹那、訓練場全体が無音に包まれた。

 風も止み、空気の粒子すら固まったかのような錯覚。

 五秒後――私は術式を解除する。

 「……完了。範囲内、完全制御」

 兵士の一人が息を飲んだ音が聞こえた。
 ゼラードも、さすがに目を細めてこちらを見ていた。

 「……素晴らしい。まさか、“セフィラ”の初動制御がここまで安定しているとは」

 「そちらが求めたのは“制御の可否”。なら、それで十分でしょう?」

 「ええ。文句のつけようがありません」

 ゼラードは書類を閉じ、立ち上がった。

 「査定は以上です。――現段階で貴女の力に“暴走の兆候”は見られません。正式な報告書にもそう記します」

 私はほっとした。だが、気を緩めるには早い。

 ゼラードの声が一段低くなる。

 「ただし、あくまで現段階です。貴女の存在は、王都にとって依然“不確定要素”。これからも継続的な観察が必要です」

 「つまり、監視は続けるってことね」

 「察しが良くて助かります」

 ゼラードは最後にこちらを一瞥し、そしてカイラスの方に向き直った。

 「貴官の責任のもと、ノクティア嬢の行動を制限しない範囲で見守る。それが“今のところ”王都の意向です」

 「……了解した」

 カイラスの返事は短い。

 ゼラードが去っていく背中を見送りながら、私は深く息を吐いた。

 (ここまでは……切り抜けた。けれど)

 私は空を見上げる。

 王都は、私を“許して”などいない。
 ――ただ、“使えるかどうか”を見ているだけ。

 そう思っただけで、背筋が凍るような寒気が走った。

 でも、それでも私は負けるつもりはない。

 “無能”と蔑まれた日々を、ただの過去にするために。
 私はこの辺境で、自分の居場所を、力を――生き方を手に入れる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

追放令嬢は辺境の廃村で美食の楽園を創る〜土と炎で紡ぐ、真の幸福レストラン〜

緋村ルナ
ファンタジー
華やかな公爵令嬢アメリアは、身に覚えのない罪で辺境の荒野へ追放された。絶望と空腹の中、泥まみれになって触れた土。そこから芽吹いた小さな命と、生まれたての料理は、アメリアの人生を大きく変える。土と炎、そして温かい人々との出会いが、彼女の才能を呼び覚ます!やがて、その手から生み出される「幸福の味」は、辺境の小さな村に奇跡を巻き起こし、追放されたはずの令嬢が、世界を変えるレストランのオーナーとして輝き始める!これは復讐ではない。自らの手で真の豊かさを掴む、美食と成長の成り上がり物語!

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

ともボン
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです 【あらすじ】  カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。  聖女の名前はアメリア・フィンドラル。  国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。 「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」  そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。  婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。  ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。  そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。  これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。  やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。 〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。  一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。  普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。  だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。  カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。  些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

処理中です...