【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ

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1章

9話「運命を裂く光、覚醒する意志」

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 崩れた遺跡の中、私は静かに立ち上がった。先ほどまで耳を打っていた轟音は遠のき、いまは石が崩れ落ちる微かな音だけが響いている。

 魔力の激突が去った後、辺境の夜は不気味な静けさに包まれていた。身体の芯から疲労が押し寄せてくる。しかし、私の内側には、奇妙な昂揚感が残っていた。

 (私は勝ったの? ……いいえ、終わっていない。レヴィアは消えたけれど、またきっと現れる)

 私は杖を握りしめ、ほの暗い遺跡の奥を見つめた。あの闇に飲まれず立っていられたのは、私の力だけじゃない。誰かを守りたい、何かを変えたい、その気持ちが私を支えてくれたのだ。

 ふと、崩れた壁の向こうで微かな気配を感じる。ゼラードが無言で佇んでいた。

 「……ゼラードさん、見届けてくれたのですね」

 「君の“選択”を最後まで見るのが私の役目だ」

 彼は冷静な声でそう告げると、魔導板に手早く何かを記録する。王都の視察官は、私の行動や言葉すべてを逃さず記録しているのだろう。

 「この戦いのこと、王都はどう受け止めるでしょうか」

 「君が“危険”で“有用”だと、より強く認識するだろう。だが、君の意思――“誰のものでもない自分自身”であろうとした覚悟。それも間違いなく伝わるはずだ」

 私は小さく頷き、意識がかすむ前に砦へと戻る道を選ぶ。夜明けが近い空に、一筋の光が差し込んでいた。

   * * *

 砦に戻ると、すでに兵士たちが慌ただしく動いていた。崩れた遺跡から漏れ出た魔力の余波で、辺境全域に影響が出ているらしい。普段は無愛想なカイラスですら、寝台から起き上がり、指示を飛ばしていた。

 「ノクティア、無事か?」

 カイラスの低い声が私の胸に響く。彼の瞳には心配と、微かな安心が混じっている。

 「はい、なんとか……遺跡は崩壊寸前ですが、危機は去りました」

 「そうか。――それで、あの“レヴィア”とやらは?」

 私は一瞬迷いながらも、正直に答えた。

 「消えました。でも、終わってはいません。彼女は私を“仲間”だと言い、次は“力を共にしよう”と……」

 「くだらん。力のためだけに人を巻き込む者など、敵でしかない」

 カイラスの言葉に、私は少しだけ微笑んだ。どこか不器用な彼の強さが、今は頼もしく感じられる。

 「……それでも、私は彼女の思いも否定しません。どれだけ間違っていても、彼女も“失われた一族”の生き残りなのだから」

 「優しいな。だが、甘すぎればお前が傷つくだけだぞ」

 その言葉が胸に刺さった。だが私はもう、後戻りするつもりはない。

 「私は戦います。王都にも、レヴィアにも、私自身のために」

   * * *

 その日、砦では思いもよらぬ「来客」があった。

 馬車が一台、王都の紋章を掲げて砦の門前に止まった。中から現れたのは、見覚えのある顔――かつての婚約者、第二王子リュゼルだった。

 「……どうしてここに?」

 私は自然と身構える。王都で私を“無能”と断じ、婚約破棄を宣言した男。その彼が、なぜ今さら辺境まで――。

 リュゼルは冷たい表情で砦の空気を一瞥すると、私の前に立った。

 「久しいな、ノクティア」

 「ええ、本当に久しぶりですね、殿下」

 「形式はやめてくれ。私は今日は“監察官”として来た」

 彼の視線にはかつての優越感も憐れみもなく、ただ純粋な探るような色だけが浮かんでいた。

 「君の“力”が王都にとってどれほど脅威か、直接確認しに来た。これが最後の“審判”だ。万が一、暴走の兆候があれば、その場で排除する」

 私は少しも動じなかった。

 「どうぞ、お好きなように。けれど私も、もう昔のノクティアじゃありません」

 カイラスが一歩前に出て、リュゼルに告げる。

 「ここは俺の指揮下だ。余計な混乱はご遠慮願いたい」

 リュゼルは冷静にカイラスを見返す。

 「噂には聞いている。だが、王都の意思は絶対だ。“辺境の魔女”が危険であると判断されれば、司令官である君の責任も問われる」

 重苦しい空気が砦を包む。私は小さく息を吐き、心を静める。

   * * *

 その夜、私はかつてない悪夢を見た。

 “王都の玉座”、そこに座るリュゼル。そして彼の隣には、かつての私――何もできず、ただうつむく少女の姿。

 けれど、夢の中の私の背後には、今の私の影が立っていた。

 「もう戻らない。私は“無能”じゃない」

 目覚めると、額に冷たい汗が流れていた。

   * * *

 リュゼルが砦に滞在する三日目。王都から新たな命令書が届いた。

 『辺境北方の魔導遺跡を再調査せよ。ノクティアを現地指揮官として派遣。王都直属の監察官の同行を許可』

 それは明らかに、私の力を「試す」ためのものだった。

 準備を整え、私はカイラスとリュゼル、そして数人の術士団員とともに遺跡へ向かった。

 道中、リュゼルは何度も私に問いかけた。

 「なぜ、君は王都を離れてまで“力”を求める?」

 「それは――私が本当の自分を、ここで初めて見つけたからです」

 リュゼルは眉をひそめた。

 「王都で君を救うことはできなかった。……だが、今の君は“王都の敵”にもなりうる」

 「私はもう、誰のものでもありません。自分の意志で戦い、生きると決めました」

 その時、遺跡の奥から、かすかな黒い霧が立ち上った。

 「警戒を!」

 カイラスが叫ぶ。瞬間、遺跡全体が震え始める。地面が裂け、魔素が渦を巻く。

 「来たか――レヴィア……!」

 私は迷わず前に出た。あの闇が、私の心を試そうとしている。

 「《律動解放・セフィラ・ラグナレウム》!」

 光が遺跡を包み、黒い霧を飲み込む。けれど、霧は消えない。今度はレヴィアの声が響いた。

 『お前はまだ分かっていない。力も、運命も――何もかも』

 闇と光がぶつかり合い、辺境の空に雷鳴が轟く。

 私は決して引かなかった。リュゼルも、カイラスも、今は私を信じて後ろを守っている。

 「これが、私の選んだ道。誰にも支配されず、誰も踏みにじらず、私は“私”として立ち続ける」

 次の瞬間、私はレヴィアと再び対峙した。魔導遺跡の奥で、私たちの戦いは運命そのものを変える――そう確信できるほど、すべてが静止し、そして動き出した。

 (負けない。絶対に)

 新たな光が、砦にも、辺境にも、私自身にも、差し込みはじめていた。
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