【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ

文字の大きさ
10 / 107
1章

10話「輝ける覚醒、王都にて」

しおりを挟む
 闇と光がぶつかる遺跡の奥、空気が張り詰め、石壁が魔力の余波できしみを上げていた。レヴィアは黒い結晶を手にし、狂気とも呼べる熱を帯びた瞳で私を見つめる。

 「お前にその資格があるのか――この力を、本当に制御できるのか、ノクティア!」

 彼女の叫びとともに、黒い魔力が蛇のようにうねり襲いかかる。私は恐れず、正面から杖を突き立てる。

 「あなたとは違う。私は、誰も支配しない。誰にも踏みにじらせない。私の力は“守る”ためにある!」

 《律動解放・セフィラ・ラグナレウム》――黄金の魔法陣が床一面に広がり、私の魔力が渦を巻く。
 黒と金が正面衝突する。遺跡全体がうなるほどの轟音と閃光。

 「ッ……まだだ! お前の“甘さ”など、世界では生き残れない――!」

 レヴィアの魔力がさらに激しさを増すが、私は自分の心に問いかける。
 (私は、もう“弱い自分”には戻らない)

 両手で杖を強く握り締め、今まで誰にも言えなかった思いを叫ぶ。

 「私は――“無能”じゃない。私は私自身の価値を、ここで証明する!」

 光がさらに強く輝き、黒い結晶を包み込む。

 「……なぜ、そこまで――!」

 レヴィアの叫びに、私ははっきりと答えた。

 「あなたも、本当は分かっているはずです。力は、誰かを救うために使える。あなたにだって、過去に“守りたいもの”があったでしょう?」

 一瞬、レヴィアの顔が苦悩に歪む。

 「私は――っ……!」

 光と闇が大きくうねり、やがて黒い魔力がかき消された。遺跡の天井が崩れ始め、瓦礫が降り注ぐ。
 私はとっさに守護障壁を展開し、レヴィアの前にも魔力の壁を張る。

 「……なぜ、助ける?」

 「誰であっても、私は見捨てません。それが私の“選んだ道”だから」

 しばしの沈黙――
 レヴィアは、深い息を吐き、黒い結晶を懐にしまい込む。

 「……今は退く。だが忘れるな、ノクティア。お前が道を誤った時、私は必ず現れる。私たちはもう、対等な“魔導士”同士だ」

 そして、レヴィアは崩れかけた遺跡の闇に身を溶かすように姿を消した。

 辺境の空に夜明けの光が差し込む。
 私は自分の鼓動が、確かな誇りと解放感で満ちているのを感じていた。

 (これで、私も前に進める……)

 遺跡の出口に向かうと、遠くから王都の伝令が馬を駆ってやってくるのが見えた。
 「ノクティア・エルヴァーン! 王都より召喚状!」

 ――そして、物語は新たな舞台へと続いていく。

* * *

 王都からの伝令が去った後、私は静かに砦へ戻った。
 戦いの余波は辺境の空気すら変えたのか、砦の兵たちは私の顔を見るなり、息を飲んで敬意と畏怖を込めた眼差しを向けてきた。

 「ノクティア様……本当に、ご無事で……」

 「遺跡が、まるで浄化されたみたいだと皆、噂しています」

 その言葉に、私はただ微笑み返すだけだった。
 かつて“無能”と陰口を叩いていた彼らの声が、今では感嘆と信頼に変わっている――その変化が、何より心に沁みた。

 やがて、カイラスが私のもとに現れる。
 「伝令を見た。王都からの呼び出し……避けては通れないな」

 「ええ。……でも、今の私は怖くありません」

 彼は小さく頷き、そっと私の肩に手を置いた。

 「お前の帰りを、ここで待っている」

 「ありがとう、カイラス」

 すぐに旅支度が整えられ、私は監察官として再び現れたリュゼルとともに、王都への馬車に揺られた。

* * *

 王都――かつて私が息苦しさと疎外感しか感じられなかった白亜の城壁が、今はまるで異国の景色のように見えた。
 馬車の窓越しに広がる石畳と、王宮の尖塔。街の人々は私の存在に気付き、さまざまな思惑の目を向けてくる。

 「辺境で“覚醒”した魔女が帰ってきたらしい」

 「無能だったはずが、今や王都でも語り草よ……」

 かつての蔑みの声が、混じり気のある敬意と恐れへと変わっている。

 審問会が開かれる玉座の間は、いつにも増して重い空気で満ちていた。
 王族、魔導士長、貴族、そして王都の有力者たち――全員が、私を「疑い」と「不安」の目で見下ろしている。

 「ノクティア・エルヴァーン。辺境にて発生した魔力異常と、貴殿の魔導行使の事実について、本日ここに正式に問う」

 王都魔導士長の厳しい声が響く。

 私は、堂々と壇上に進み出た。

 「異論はありません。私の全てを、ここでお見せします」

 魔導士長が命じる。「《セフィラ・ラグナレウム》をここで発動しろ。ただし、制御できなければ、その時点で資格を失う」

 私は迷いなく杖を掲げる。

 「《律動解放・セフィラ・ラグナレウム》」

 空間がきらめく黄金色の魔法陣で包まれ、空気が一変する。
 会場の誰もが圧倒され、誰ひとり声を出す者もいない。

 (これが、私の歩んできた道、今の私の全て――)

 魔法を見事に収束させると、場内は水を打ったような静けさに包まれた。
 ようやく、老齢の審問官が声を搾り出す。

 「これほどの力……。まさか、あの“無能”と呼ばれた娘が……」

 貴族のひとりが低く呟く。「どれほど我々が見下していたか、思い知らされたな……」

 第二王子リュゼルは、私の方をしっかりと見据え、初めて素直な声で告げた。

 「ノクティア……君は、王都にとって誇るべき存在だ。私は間違っていた」

 私はその言葉を静かに受け止め、微笑んで答える。

 「ありがとう、殿下。でも、私は誰のためでもなく、自分自身のためにここまで来ました」

 やがて審問会は結論を下す。
 「ノクティア・エルヴァーン。貴殿は王都に危害を加える意志なきこと、並びに魔導士として唯一無二の資質を有することを認める」

 帰り道、私は馬車の窓から王都の空を見上げる。
 かつてこの街で“無能”と囁かれていた自分が、今や最強の魔導士として認められた。

 (これが、私の選び取った“答え”――)

 私の新しい旅路が、ここからまた始まる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~

咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」 卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。 しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。 ​「これで好きな料理が作れる!」 ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。 冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!? ​レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。 「君の料理なしでは生きられない」 「一生そばにいてくれ」 と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……? ​一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです! ​美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!

悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」 公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。 忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。 「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」 冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。 彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。 一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。 これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。

大自然を司る聖女、王宮を見捨て辺境で楽しく生きていく!

向原 行人
ファンタジー
旧題:聖女なのに婚約破棄した上に辺境へ追放? ショックで前世を思い出し、魔法で電化製品を再現出来るようになって快適なので、もう戻りません。 土の聖女と呼ばれる土魔法を極めた私、セシリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡された上に、王宮を追放されて辺境の地へ飛ばされてしまった。 とりあえず、辺境の地でも何とか生きていくしかないと思った物の、着いた先は家どころか人すら居ない場所だった。 こんな所でどうすれば良いのと、ショックで頭が真っ白になった瞬間、突然前世の――日本の某家電量販店の販売員として働いていた記憶が蘇る。 土魔法で家や畑を作り、具現化魔法で家電製品を再現し……あれ? 王宮暮らしより遥かに快適なんですけど! 一方、王宮での私がしていた仕事を出来る者が居ないらしく、戻って来いと言われるけど、モフモフな動物さんたちと一緒に快適で幸せに暮らして居るので、お断りします。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

元悪役令嬢、偽聖女に婚約破棄され追放されたけど、前世の農業知識で辺境から成り上がって新しい国の母になりました

黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢ロゼリアは、王太子から「悪役令嬢」の汚名を着せられ、大勢の貴族の前で婚約を破棄される。だが彼女は動じない。前世の記憶を持つ彼女は、法的に完璧な「離婚届」を叩きつけ、自ら自由を選ぶ! 追放された先は、人々が希望を失った「灰色の谷」。しかし、そこは彼女にとって、前世の農業知識を活かせる最高の「研究室」だった。 土を耕し、水路を拓き、新たな作物を育てる彼女の姿に、心を閉ざしていた村人たちも、ぶっきらぼうな謎の青年カイも、次第に心を動かされていく。 やがて「辺境の女神」と呼ばれるようになった彼女の奇跡は、一つの領地を、そして傾きかけた王国全体の運命をも揺るがすことに。 これは、一人の気高き令嬢が、逆境を乗り越え、最高の仲間たちと新しい国を築き、かけがえのない愛を見つけるまでの、壮大な逆転成り上がりストーリー!

追放された悪役令嬢が前世の記憶とカツ丼で辺境の救世主に!?~無骨な辺境伯様と胃袋掴んで幸せになります~

緋村ルナ
ファンタジー
公爵令嬢アリアンナは、婚約者の王太子から身に覚えのない罪で断罪され、辺境へ追放されてしまう。すべては可憐な聖女の策略だった。 絶望の淵で、アリアンナは思い出す。――仕事に疲れた心を癒してくれた、前世日本のソウルフード「カツ丼」の記憶を! 「もう誰も頼らない。私は、私の料理で生きていく!」 辺境の地で、彼女は唯一の武器である料理の知識を使い、異世界の食材でカツ丼の再現に挑む。試行錯誤の末に完成した「勝利の飯(ヴィクトリー・ボウル)」は、無骨な騎士や冒険者たちの心を鷲掴みにし、寂れた辺境の町に奇跡をもたらしていく。 やがて彼女の成功は、彼女を捨てた元婚約者たちの耳にも届くことに。 これは、全てを失った悪役令嬢が、一皿のカツ丼から始まる温かい奇跡で、本当の幸せと愛する人を見つける痛快逆転グルメ・ラブストーリー!

【完結】 笑わない、かわいげがない、胸がないの『ないないない令嬢』、国外追放を言い渡される~私を追い出せば国が大変なことになりますよ?~

夏芽空
恋愛
「笑わない! かわいげがない! 胸がない! 三つのないを持つ、『ないないない令嬢』のオフェリア! 君との婚約を破棄する!」 婚約者の第一王子はオフェリアに婚約破棄を言い渡した上に、さらには国外追放するとまで言ってきた。 「私は構いませんが、この国が困ることになりますよ?」 オフェリアは国で唯一の特別な力を持っている。 傷を癒したり、作物を実らせたり、邪悪な心を持つ魔物から国を守ったりと、力には様々な種類がある。 オフェリアがいなくなれば、その力も消えてしまう。 国は困ることになるだろう。 だから親切心で言ってあげたのだが、第一王子は聞く耳を持たなかった。 警告を無視して、オフェリアを国外追放した。 国を出たオフェリアは、隣国で魔術師団の団長と出会う。 ひょんなことから彼の下で働くことになり、絆を深めていく。 一方、オフェリアを追放した国は、第一王子の愚かな選択のせいで崩壊していくのだった……。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...