【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ

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2章

12話「波紋の地平、集う意思」

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 レヴィアが月明かりに溶けるように消えていったあの夜から、私はずっと心にざらついたものを抱えていた。
 “世界は変わる”。その不吉な予言が、辺境の空に新しい影を落とした気がしてならなかった。

 朝を迎えても、その余韻は消えなかった。
 調査日誌に筆を走らせていると、エイミーが慌ただしく扉を叩いた。

 「ノクティア様、すぐに作戦会議室へ! 王都、セレスタ両方から緊急の報告が届いています」

 私は立ち上がり、昨夜の重い空気を払いのけるように、会議室へと急いだ。

* * *

 会議室には、カイラス、レオナート、エイミー、王都からの連絡官、そして数名のセレスタ術士たちが集まっていた。
 テーブルの上には、各地の被害状況を示す地図と、黒い結晶の欠片が並ぶ。

 「北部の森だけじゃありません。西の村、さらには国境を越えてセレスタ領でも“黒い霧”の発生が確認されたそうです」

 エイミーの報告に、レオナートが深刻な表情で地図を指した。

 「セレスタ側の観測班も壊滅的な魔素暴走を記録しています。これはもう、私たちだけの問題ではありません。すでに国際的な危機です」

 私は自分の胸の奥に、冷たい予感が広がるのを感じた。

 「……セフィラ一族の遺産が、何者かの手で解放されている。レヴィアの一派か、それとも――」

 その時、カイラスが低く唸るように言った。

 「王都から追加命令だ。ノクティア、お前を“辺境統括魔導士”として指名する。王都・セレスタの調整と現場指揮、全部お前が担えとのことだ」

 周囲がどよめく。
 かつて“無能”と蔑まれた私が、今や王都と隣国の間で命運を握る存在になっている。
 ――戸惑いよりも、今は燃えるような覚悟の方が強かった。

* * *

 調査部隊の再編が進む。
 私は各班の代表者と打ち合わせを重ね、各地の霧や魔素異常の原因を探るため、同時多発的に調査を行う指示を出した。

 エイミーと王都術士班は南方の村へ、レオナート率いるセレスタ班は国境線沿いの森へ。
 カイラスは砦の防衛と後方支援にまわり、私は北部の危険地帯へと向かう。

 「ノクティアさん、これはもう“辺境の事件”じゃありません。もし何かあったら、必ず戻ってきてください」

 エイミーの不安そうな声に、私は優しく微笑んだ。

 「大丈夫。私はもう、逃げたりしません」

* * *

 北部の森――。
 黒い霧は昼なお薄暗い森の奥を覆い、地面には無数の黒い結晶が点在している。

 私は慎重に結界を張りながら、セフィラの律動制御魔法で周囲の魔力の流れを読み取る。

 (……これは、ただの魔素暴走じゃない。誰かが意図的に“核”を埋め込んでいる)

 ふと、背後でかすかな気配。

 「ノクティアさん――」

 レオナートが現れた。
 「国境側の森でも、同じような結晶体を確認しました。どこも必ず“何者かの手”が加わっています」

 私は頷く。「レヴィア、あるいは彼女を操る“何か”……目的が分からない限り、こちらも動けない」

 その時、頭上で樹々が大きく揺れた。
 黒い結晶体に覆われた獣――まるで人間だった頃の名残を残す異形が、森の奥から姿を現す。

 私は杖を構え、魔力を練る。

 「私の力は、守るためにこそある――!」

 レオナートも剣を抜き、並び立つ。「共に迎え撃ちましょう」

 魔法陣が浮かび上がり、獣の咆哮が森を震わせる。
 激しい魔力の応酬の末、結界の中で結晶体が砕け、異形は消滅した。

 だが、その場に残された黒い欠片から、不気味な赤い光がちらりと閃く。

* * *

 急ぎ砦に戻ると、作戦会議室はすでに緊急体制だった。
 各地からの被害報告が次々に飛び込んでくる。

 「王都西部でも黒い霧が発生!」「セレスタ本国北端都市も、結界が突破されたと!」

 全員が一斉に私を見た。

 「ノクティア、どうする?」

 私は机の地図を見つめ、ゆっくりと深呼吸をした。

 「……もう局地的な対応では足りません。全調査班を再招集してください。これより“広域連携作戦”を実施します」

 カイラスが短く頷く。「指揮はすべてお前に一任する」

 私の中で何かが静かに点火した。

 「世界の均衡が崩れようとしている。だからこそ――私は私の意志で、全てに立ち向かう」

 その時、机の上の魔導通信石が急に明滅し始めた。

 『こちら王都中央魔術局――至急、グランツ砦に連絡! セフィラの血に反応する“未知の魔力波”を複数座標で観測。急ぎ現地確認を……』

 通信がノイズにかき消され、石が小さく砕け散った。

 凍りついた空気の中、私は迷いなく立ち上がる。

 「現場へ向かいます。全員、準備を!」

 カイラスもレオナートも、エイミーも、皆が静かに頷いた。

 誰もが、これから始まる大きな波に胸の高鳴りと不安を覚えながら、夜明け前の砦を出発する――

 世界のどこかで、“何か”が動き始めている。その気配が、私たち全員の背中を押していた。
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