【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ

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2章

13話「静謐なる夜明け、揺れる誓い」

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 薄い雲の向こうから、朝陽が辺境を静かに照らし始めていた。
 私はグランツ砦の東の見張り台で、ゆっくりと冷たい風を吸い込む。

 “世界のどこかで、また黒い霧が立った。”

 そんな報告を受けるたび、胸の奥で何かが軋むような痛みを覚える。
 だが、もう逃げることはできない。私は王都とセレスタ双方の信任を受け、辺境の指揮官となった。

* * *

 「ノクティア、次の対応方針を聞かせてくれ」

 カイラスが、控えめな声で私に話しかける。
 彼の言葉には、いつも通りのぶっきらぼうさと、ほんのわずかな温かみが混ざっていた。

 「まずは、国境近くの森の調査を優先します。黒い結晶の発生源を突き止めて、浄化術式を試してみるわ。エイミーには魔素流の観測を、レオナートにはセレスタ術士団への指示を頼みます」

 カイラスは黙って頷き、腕を組んだまま砦の方角を見つめていた。

* * *

 現場に向かう馬車の中、エイミーは窓の外を見つめながら、ぽつりと呟く。

 「ノクティアさん、あの……怖くはないんですか? こんなに世界が騒然として、みんながあなたに頼るばかりで」

 私は少しだけ考えてから、静かに答えた。

 「怖くないと言ったら嘘になるわ。でも、もう“無能”と呼ばれたあの日には戻りたくない。たとえ結果がどうなっても、今は自分の意志で進みたい」

 エイミーが小さく微笑み、「……やっぱり強い人だ」と言った。

* * *

 森の奥は、まるで異世界のようだった。
 地面には黒い結晶が散乱し、霧は重く、音も光も吸い取られるような沈黙が支配している。

 「魔素流はこの奥で急激に乱れています」とエイミーが警告した。

 私は結界の中核に立ち、ゆっくりと杖を掲げる。

 「《律動制御・浄化陣展開》――!」

 金色の魔法陣が足元から広がり、霧を少しずつ押し返していく。
 だが、中心部から現れたのは――黒い結晶を抱いた異形の魔獣だった。

 レオナートが剣を抜き、私の横に立つ。

 「ノクティアさん、ここは私が引きつけます。術式の完成を!」

 「ありがとう。でも、これは私にしか浄化できない。……お願い、少しだけ時間を稼いで」

 レオナートが頷き、異形と対峙する。
 その間に、私は全神経を集中させ、結晶の核に力を注ぐ。

 (これが、私にしかできない“覚醒”の意味――)

 「……《律動解放・輝環》!」

 強烈な光が結晶を包み込み、魔獣の咆哮が森に響いた。やがて光が収まると、霧も、魔獣も、静かに消えていった。

* * *

 調査の帰路、私はほっとした息をつき、仲間たちの顔を見回した。

 「無事で何よりだな」とカイラスが不器用に呟く。
 エイミーは「ノクティアさん、本当に……あなたがいてくれて良かった」と目を潤ませた。

 レオナートは静かに頭を下げる。「ノクティアさん、あなたの魔法は、もはや“辺境”のものではありません。……セレスタの名誉のためにも、全力で支援を誓います」

 私はみんなに笑みを返した。

* * *

 その夜、砦の食堂で遅い食事を取っていると、レオナートがそっと私の隣に座った。

 「ノクティアさん――実は、今日の戦いの中で、不思議な“声”を聞きました。霧の奥から、“次は本当の選択を迫る”と……聞き覚えのある女の声でした」

 私は一瞬、手の動きを止めた。
 レヴィアの幻影か、それとも別の何者かか。けれど今は誰にも確かめられない。

 レオナートが続ける。「もし、また何かあれば、遠慮なく私を頼ってください。……あなたはもう、独りじゃない」

 私は彼の真剣な眼差しを受け止め、小さくうなずいた。

 そのとき、外の見張り台から兵士が駆け込んできた。

 「ノクティアさん、緊急報告です! 王都中央魔術局から“至急連絡”――“大規模な魔力波動”が北方一帯で観測されたとのこと!」

 食堂のざわめきが一瞬止まり、皆の視線が私に集まる。

 私は静かに立ち上がった。「……状況を確認しましょう」

 レオナート、エイミー、カイラス――
 仲間たちと視線を交わし、私たちは足早に夜の砦を後にした。

 今度こそ、誰も後戻りできない何かが動き出している。その予感が、夜気の中に不気味なほど濃く漂っていた。
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