【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ

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2章

14話「遥かなる波動、夜明けを告げる剣」

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 食堂の扉が激しく揺れ、兵士が駆け込んできた。

 「ノクティア殿、緊急報告です! 王都中央魔術局から“至急連絡”――北方一帯で大規模な魔力波動が観測されたとのことです!」

 ざわめきがぴたりと止まり、皆がこちらに注目する。
 カイラスが静かに立ち上がり、無言で私に視線を送る。
 エイミーとレオナートは驚いたように顔を見合わせていた。

 私は椅子を引いて立ち上がり、兵士に向き直る。

 「詳細は? 魔力波動の強さや範囲、追加の報告は?」

 「はい。現時点で判明しているのは――北方の山岳地帯で通常の十倍を超える魔力の変動、未知の魔法陣の発生、さらに空間歪曲が複数箇所で観測されているとのことです!」

 空間歪曲――世界そのものを脅かす最悪の兆候だ。
 私はすぐに判断した。

 「カイラス、砦の警戒態勢を最大に。レオナートさん、セレスタ術士団を動かして国境線の監視と補助結界を。エイミーは王都班と測定班を組み、現地へ急行します!」

 みな一斉に動き出した。
 カイラスはすぐさま部下に指示を飛ばし、兵士たちが廊下に駆け出していく。
 エイミーとレオナートも、表情を引き締めて立ち上がった。

* * *

 私は一番早い馬にまたがり、エイミーと測定班、数名の王都術士、砦の若手兵士たちと北方へ急ぐ。
 夜の冷たい空気が肌を刺し、空には分厚い雲が重く垂れ込めていた。

 「ノクティアさん……空間歪曲って、本当に“異世界の扉”が開く可能性もあるんですか?」

 エイミーが馬を並走させながら、声をひそめて言う。

 「可能性はある。でも、私たちで止めてみせるわ。ここに生きる意味を、私たち自身で証明しましょう」

 言いながら、自分の手のひらにじんわり汗が滲んでいるのを感じる。
 “最強”と呼ばれても、こんな時は怖さが胸を締め付ける。それでも、もう逃げたくはなかった。

* * *

 現地に近づくと、夜空に黒紫の巨大な魔法陣が山肌に浮かんでいるのが見えた。
 あたり一帯は異様な静けさと重苦しさに包まれている。

 「魔素流が逆流している……自然発生の範囲を超えています」
 王都術士の一人が青ざめて呟く。

 私は馬を降り、杖を手に進み出る。

 「全員、私の後ろに下がって」

 エイミーが素早く詠唱を始める。「《防護結界・第二層》!」

 私は魔法陣の中心へ向かい、全身で魔素の流れを探った。

 (この魔法陣……セフィラ律動系、それも極めて高度なもの)

 足元の土から黒い結晶が突き出し、異形の獣が姿を現す。
 その目は哀しみに満ちているようにも見えた。

 「……あなたも誰かに操られているのね」

 私は静かに杖を構えた。

 「《律動制御・慰撫の環》!」

 金色の光輪が魔獣を包み込み、咆哮が夜空に響く。やがて魔獣の姿は消え、中心には脈動する黒い結晶――“災厄の核”が残された。

* * *

 そこへ、レオナートとセレスタ術士団が合流する。

 「ノクティアさん、ご無事でしたか!」

 「ありがとう、レオナートさん。でも、これからが本番よ」

 私は結晶の前に立ち、両手を広げる。
 その瞬間、頭の奥に強い痛みとともにあの声が響く。

 『――選べ、ノクティア。“守る”か、“解き放つ”か。世界が、お前の決断を待っている』

 レヴィアの声。そして、その奥にもうひとつ、冷たい気配――

 「私は守る。この地で生きる全ての人のために」

 私は両手を重ね、詠唱を始める。

 「《律動解放・絶対封印》!」

 大地が鳴動し、空間の歪みが一気に収縮していく。
 魔法陣の輝きが金色に変わり、黒い結晶は粉々に砕けた。

 「ノクティアさん……!」

 エイミーが駆け寄り、私の体を支える。レオナートも険しい顔で周囲を見回す。

 だが、欠片はふいに空へ浮かび上がった。

 次の瞬間、夜空が真っ二つに割れるような轟音――
 裂け目から、全く未知の人影が現れる。

 フードを深くかぶったその影は、レヴィアにも似ているが、どこか違う雰囲気をまとっていた。

 「……初めまして、ノクティア」

 その声は不思議な透明感があり、心に冷たく響く。

 「私はアムネリス。セフィラの“始祖”より受け継がれし、本流の末裔――いずれ、あなたに選択を迫る者です」

 私は息を呑み、杖を強く握りしめた。
 アムネリスは静かに空中を舞い、砕けた黒い欠片を手に取る。

 「見届けましょう、ノクティア。あなたが“守る者”として世界を閉ざすのか、それとも新たな門を開くのかを」

 そう言い残し、アムネリスの姿は夜空の裂け目とともに消えた。

 あたりには、静寂だけが残る。

* * *

 私たちは呆然としながらも、互いに顔を見合わせた。
 これまでの危機は、ほんの始まりに過ぎなかったのだ。

 レオナートが、私の肩にそっと手を置く。

 「ノクティアさん……あなたの選択が、本当に世界を決めるのかもしれません。でも、私は信じている。必ず、道は開けるはずです」

 エイミーも、涙ぐんだ目で小さく頷いた。

 カイラスが短く一言。

 「お前が信じる道を、最後まで行け」

 私は微笑んだ。

 ――選択の時は、すぐそこまで迫っている。

 曇り空の裂け目から、一筋の光が夜明けを告げようとしていた。
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