【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ

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2章

16話「動き出す陰謀、蠢くセフィラの血」

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 大陸の春はまだ遠く、辺境の砦には冷たい風が吹き込んでいた。
 その朝、私は書類に目を落としたまま、不意に胸騒ぎを覚えた。

 魔力異常の被害が、ついに王都やセレスタ本国、隣接する村々にまで拡大している――。
 数日前から各地で不審な“黒い霧”や魔導士の暴走、貴族階級の発狂事件が相次ぎ、
 砦の兵士たちも不安を隠しきれずにいる。

 (これが、“セフィラの血”にまつわる因果なの?)

 かつて「無能」と蔑まれた自分が、いまや王都・セレスタ両国から“切り札”として頼られている。
 その重圧は、想像以上に重かった。

* * *

 午前の会議室は、いつになく殺気立っていた。

 「ノクティア殿、王都から新たな通達です。“現地で混乱を収束させられない場合、セフィラの力ごと貴女を封印せよ”と――」

 連絡官の言葉に、場が凍る。

 「ふざけるな。ノクティアは今や、辺境最大の戦力だぞ」

 カイラスが険しい表情で声を荒げる。その隣で、エイミーとレオナートが神妙に俯いていた。

 私は一度だけ目を閉じて息を吐き、皆に宣言した。

 「――たとえ“力”が怖れられても、私は逃げない。
  この砦も、王都も、セレスタも。守るべきものを守るために立ち続けるわ」

 兵士たちの目に迷いが消え、わずかに安堵の色が戻る。

* * *

 午後、異変は突然やってきた。

 「ノクティア殿! 西の森で魔導士が暴走、砦の結界も破られそうです!」

 兵士が血相を変えて駆け込む。
 私は即座に立ち上がった。

 「エイミー、レオナートさん、現地班の指揮をお願い! 私は最前線に向かいます!」

 「分かりました、ノクティアさん!」

 「必ず追いつきます!」

 彼らの声を背に、私は杖を携えて駆け出した。

* * *

 森の奥は不気味な静寂に包まれていた。
 黒い霧が地表を這い、ねじれた樹々の影が幾重にも重なっている。

 (魔素が……渦を巻いている)

 私はすぐに暴走した魔導士を発見した。
 彼は目を虚ろにさせ、黒い結晶を握りしめている。

 「ノクティア……助けてくれ……」

 「大丈夫。私が必ず――」

 私は結界を展開し、黒い結晶の力を浄化する。
 魔導士は意識を取り戻し、地面に崩れ落ちた。

 「ありがとう、ノクティア殿……」

 私は彼を兵士たちに託し、周囲の気配に神経を研ぎ澄ます。

 (この黒い結晶……人為的に置かれている?)

 ふいに背後で草が揺れ、冷たい声が響いた。

 「その推測は正しいよ」

 私は反射的に身を翻し、杖を構えた。

 そこには、漆黒のローブをまとったレヴィアが立っていた。
 いつかと同じ、鋭い瞳が私を射抜く。

 「レヴィア……!」

 「お前の覚悟は見せてもらった。だが、アムネリスの手が本格的に動き出した以上、
  お前だけでこの“運命”には抗えない」

 「なら、一緒に戦って。あなたも……もう、“敵”じゃないのでしょう?」

 レヴィアはかすかに苦笑し、視線を逸らした。

 「私は自分の正義のために動く。それがたまたま、お前と重なる時もあるだけさ」

 彼女の言葉には、かすかな寂しさと、何かを諦めたような苦味が滲んでいる。

 「アムネリスは何を望んでいるの?」

 「“始祖”の孤独と絶望――それを埋めるために、“血族”を新たな“器”に変えようとしている。
  だが、力を手にした者の運命は、いつだって残酷だ。お前はそれを覚悟した上で、世界に抗う道を選べ」

 レヴィアは静かに背を向け、森の奥へと消えた。

 私はその背をしばし見送り、心の底で強く誓った。

 (どんな真実が待っていようとも、私は“誰も犠牲にしない”選択を見つけてみせる)

* * *

 砦に戻ると、王都とセレスタからさらに追い打ちのような報せが届いていた。

 「ノクティア殿、王都で魔導士の発狂事件が多発。
  “セフィラの情報を全て開示しろ”、それができなければ王都直属の封印部隊を派遣するとのことです!」

 「セレスタ側でも同様です。“辺境の魔導士たちに操られている”という疑いまで出ています」

 私は内心で苦笑した。

 (都合が悪くなれば、また“異端”や“無能”に責任を押し付けるのね……)

 だが、いまは違う。
 私の隣には、カイラス、エイミー、レオナート、
 そして砦の仲間たち――私を信じてくれる人がいる。

 私は皆の前に立ち、宣言した。

 「私たちは“セフィラの血”と向き合い、必ず真相を突き止めます。
 王都にも、セレスタにも、誰にも屈しません!」

 エイミーとレオナートが静かに頷き、カイラスが腕を組んで私を見守っている。

* * *

 その夜、私は自室の机で、
 封じ込めた黒い結晶と睨み合っていた。

 (これが、始まり……)

 窓の外には、また新たな黒い霧が遠く地平を覆っている。

 と、その時。
 部屋の奥に異質な気配が漂った。

 「よくぞここまで来たね、ノクティア」

 柔らかいが底知れぬ声――アムネリス。

 闇の中から、フードを被った女性の姿が浮かび上がる。
 その目は哀しみと慈愛、そして底無しの孤独を湛えていた。

 「お前に選ばせる。血族の存続か、世界の均衡か。
  だが、どちらかだけが救われる“選択”に、今度こそ決着をつけるときが来た」

 私は静かに、しかしはっきりと返した。

 「私は、どちらも救ってみせる――絶対に」

 アムネリスは微かに笑い、
 「……なら、私の元へ来なさい。セフィラの真実と“始祖の願い”を知るために」

 そして彼女の影は闇に溶け、部屋の空気は元の静けさを取り戻した。

 (世界が動き出す……この手で、新しい答えを見つけなければ)

 私は結晶を握りしめ、
 決して後戻りしないと心に誓った。
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