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2章
外伝1「大鍋パニック!辺境食堂と魔法のシチュー」
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平和が戻ったグランツ砦に、春の朝日が差し込んでいた。
「ノクティアさん、大変です!」
エイミーの叫び声とともに、私は朝食を運ぶ手を止める。
「どうしたの? エイミー」
「食堂の……大鍋が……! 底が、抜けました!」
「……え?」
食堂担当の兵士が青ざめてやってきた。「ノクティア殿、マジです。朝のスープが全部、床に……」
辺境で最強と謳われる魔導士も、食堂の危機にはさすがに狼狽する。
「……と、とにかく、みんなに朝食を……」
「もう全然間に合いません!」
エイミーが泣きそうだ。
その時、控えめに扉を叩く音。
「ノクティアさん、どうしました?」
レオナートが珍しく慌ててやってくる。「兵士たち、朝食まだだって騒いでます。…まさか、異世界の魔物でも出たのかと――」
「違うの! 鍋が……鍋が……!」
「ふむ。要するに、鍋が壊れてスープが作れない――」
レオナートは真剣な顔で顎に手をやる。「これは…兵站的にも危機的状況ですね」
「真剣すぎる……」エイミーが小さくぼやく。
その時、ドアが勢いよく開く。
「ノクティア! なんか面白そうなことしてるじゃないか」
入ってきたのは、レヴィア。
髪を無造作に結び、どこか得意げだ。
「面白くないわよ、レヴィア。鍋が壊れて、みんな朝ごはん抜きなの」
「なら、魔法で鍋を作ればいいだろ。簡単だ」
私とエイミーとレオナート、三人は顔を見合わせた。
「えっ、魔法で鍋……?」
レヴィアはにやりと笑う。「見てろよ」
* * *
結局、兵士たちの期待と食堂組のプレッシャーを背負い、私は“魔法で大鍋を創る”という無茶振りに挑むことになった。
(こんなとき、世界の命運をかけた大魔法より手が震えるなんて……)
厨房の真ん中、壊れた大鍋を前に魔法陣を描く。
「《創造・大鍋改》!」
しかし、パァン!と白い煙が上がり、現れたのは……なぜか、蓋だけの鍋。
「う、上だけ!?」
エイミーが盛大にずっこける。
「もう一度! 今度は底も!」
焦った私は再び詠唱。「《創造・大鍋・底特化!》」
今度は底しかできなかった。床にコロン、と丸い鉄板が転がる。
「ノクティアさん……新種のギャグですか?」
エイミーが涙目だ。
「……次は私がやる!」
レヴィアが前に出て、力任せに詠唱する。
「《強化鍛造・大鍋仕様!》」
ズガァン!
ものすごい音とともに現れたのは、
「これ……戦車のパーツじゃ……?」
鍋というより、鋼鉄の装甲板がごろり。
「火力も任せろ!」
レヴィアが指を鳴らすと、コンロの下からメラメラと異常な火柱。
「レヴィア、それは熱すぎる! 料理じゃなくて素材が燃える!」
兵士たちは「ノクティア殿、まさか砦が丸焼けに!?」と右往左往。
レオナートが冷静に手を挙げる。
「ここは僕に任せてください。セレスタ式の“安定加熱魔法”なら――」
慎重な詠唱とともに、鍋(?)の下に優しい青白い炎が灯る。
「これなら……」
と誰もが思ったのも束の間。
「安定しすぎて、温度が全然上がりません!」
皆がガックリと肩を落とした。
* * *
そこでエイミーが提案する。
「もう、みんなで協力しませんか? 一人じゃなくて!」
私は小さく笑う。「そうだね。調和の魔法は、みんなの力が集まってこそ生まれるんだもの」
四人で大きく手を重ねる。
「《大鍋創造・四重奏(カルテット)》!」
魔法陣が四重に重なり、ついに“完璧な大鍋”が現れる。
その瞬間、兵士たちから「おおおっ!」と歓声が沸き上がる。
「ノクティアさん、今度は中身ですね!」
エイミーが腕まくりして野菜を刻み始める。
「レオナートさん、肉の下ごしらえ、お願いします」
「はい、全力で!」
レヴィアも腕を組み、「野菜の皮むきなら、魔法より包丁のほうがマシか」とぶつぶつ言いながらも、不器用ながらせっせと手伝う。
私は魔法で食材のうまみを引き出しながら、ゆっくり大鍋を煮込んでいく。
「これで、みんな笑顔になってくれたら……」
* * *
夕方、砦中においしいシチューの匂いが広がった。
食堂に集まった兵士や住民たちが、一斉にスプーンを手にする。
「うまい!」「これぞ、辺境グランツ砦の味!」
「ノクティア殿、もう砦の台所長でいいのでは?」
レヴィアは腕を組み、「まあ、悪くない」とそっぽを向いている。
エイミーはほっとした表情で、「みんなの力で作ったから、特別においしいですね」と笑う。
レオナートは真面目な顔で、「魔法も大事ですが、協力の味が一番です」とうなずいた。
私はみんなの笑顔を見て、心の底から嬉しくなった。
(こうして集える日常も、守りたかった“未来”のひとつなんだ――)
「明日からも、みんなで一緒にがんばろうね」
砦には、いつまでも温かい笑い声とおいしい香りが満ちていた。
「ノクティアさん、大変です!」
エイミーの叫び声とともに、私は朝食を運ぶ手を止める。
「どうしたの? エイミー」
「食堂の……大鍋が……! 底が、抜けました!」
「……え?」
食堂担当の兵士が青ざめてやってきた。「ノクティア殿、マジです。朝のスープが全部、床に……」
辺境で最強と謳われる魔導士も、食堂の危機にはさすがに狼狽する。
「……と、とにかく、みんなに朝食を……」
「もう全然間に合いません!」
エイミーが泣きそうだ。
その時、控えめに扉を叩く音。
「ノクティアさん、どうしました?」
レオナートが珍しく慌ててやってくる。「兵士たち、朝食まだだって騒いでます。…まさか、異世界の魔物でも出たのかと――」
「違うの! 鍋が……鍋が……!」
「ふむ。要するに、鍋が壊れてスープが作れない――」
レオナートは真剣な顔で顎に手をやる。「これは…兵站的にも危機的状況ですね」
「真剣すぎる……」エイミーが小さくぼやく。
その時、ドアが勢いよく開く。
「ノクティア! なんか面白そうなことしてるじゃないか」
入ってきたのは、レヴィア。
髪を無造作に結び、どこか得意げだ。
「面白くないわよ、レヴィア。鍋が壊れて、みんな朝ごはん抜きなの」
「なら、魔法で鍋を作ればいいだろ。簡単だ」
私とエイミーとレオナート、三人は顔を見合わせた。
「えっ、魔法で鍋……?」
レヴィアはにやりと笑う。「見てろよ」
* * *
結局、兵士たちの期待と食堂組のプレッシャーを背負い、私は“魔法で大鍋を創る”という無茶振りに挑むことになった。
(こんなとき、世界の命運をかけた大魔法より手が震えるなんて……)
厨房の真ん中、壊れた大鍋を前に魔法陣を描く。
「《創造・大鍋改》!」
しかし、パァン!と白い煙が上がり、現れたのは……なぜか、蓋だけの鍋。
「う、上だけ!?」
エイミーが盛大にずっこける。
「もう一度! 今度は底も!」
焦った私は再び詠唱。「《創造・大鍋・底特化!》」
今度は底しかできなかった。床にコロン、と丸い鉄板が転がる。
「ノクティアさん……新種のギャグですか?」
エイミーが涙目だ。
「……次は私がやる!」
レヴィアが前に出て、力任せに詠唱する。
「《強化鍛造・大鍋仕様!》」
ズガァン!
ものすごい音とともに現れたのは、
「これ……戦車のパーツじゃ……?」
鍋というより、鋼鉄の装甲板がごろり。
「火力も任せろ!」
レヴィアが指を鳴らすと、コンロの下からメラメラと異常な火柱。
「レヴィア、それは熱すぎる! 料理じゃなくて素材が燃える!」
兵士たちは「ノクティア殿、まさか砦が丸焼けに!?」と右往左往。
レオナートが冷静に手を挙げる。
「ここは僕に任せてください。セレスタ式の“安定加熱魔法”なら――」
慎重な詠唱とともに、鍋(?)の下に優しい青白い炎が灯る。
「これなら……」
と誰もが思ったのも束の間。
「安定しすぎて、温度が全然上がりません!」
皆がガックリと肩を落とした。
* * *
そこでエイミーが提案する。
「もう、みんなで協力しませんか? 一人じゃなくて!」
私は小さく笑う。「そうだね。調和の魔法は、みんなの力が集まってこそ生まれるんだもの」
四人で大きく手を重ねる。
「《大鍋創造・四重奏(カルテット)》!」
魔法陣が四重に重なり、ついに“完璧な大鍋”が現れる。
その瞬間、兵士たちから「おおおっ!」と歓声が沸き上がる。
「ノクティアさん、今度は中身ですね!」
エイミーが腕まくりして野菜を刻み始める。
「レオナートさん、肉の下ごしらえ、お願いします」
「はい、全力で!」
レヴィアも腕を組み、「野菜の皮むきなら、魔法より包丁のほうがマシか」とぶつぶつ言いながらも、不器用ながらせっせと手伝う。
私は魔法で食材のうまみを引き出しながら、ゆっくり大鍋を煮込んでいく。
「これで、みんな笑顔になってくれたら……」
* * *
夕方、砦中においしいシチューの匂いが広がった。
食堂に集まった兵士や住民たちが、一斉にスプーンを手にする。
「うまい!」「これぞ、辺境グランツ砦の味!」
「ノクティア殿、もう砦の台所長でいいのでは?」
レヴィアは腕を組み、「まあ、悪くない」とそっぽを向いている。
エイミーはほっとした表情で、「みんなの力で作ったから、特別においしいですね」と笑う。
レオナートは真面目な顔で、「魔法も大事ですが、協力の味が一番です」とうなずいた。
私はみんなの笑顔を見て、心の底から嬉しくなった。
(こうして集える日常も、守りたかった“未来”のひとつなんだ――)
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砦には、いつまでも温かい笑い声とおいしい香りが満ちていた。
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